「煮干ラーメン」。元々東日本では当たり前のようにラーメンには魚介出汁が入り、「支那そば」という表現をすると魚介出汁を思い浮かべることが多い。中でも北の地方の老舗ラーメン店ではラーメンとは言わずもがな煮干ラーメンであることが多く、あえて煮干を表記するお店は稀だ。
しかし、2000年代後半頃より東京を皮切りに煮干ラーメンのネーミングが全国を駆け巡る。私の記憶するところではまず王子神谷の『伊藤』。そして永福町系『大勝軒』の独立が相次ぎ、ゴールデン街の『凪(現煮干王)』が開業したのもこの頃だろう。雑誌、TV、インターネットとまずメディアの発信地になるのは東京。ラーメン業界も例外ではなく、まず東京からブームは発信される。
そのような中で、今回は初心に立ち返るべくブームよりもはるか昔より煮干ラーメンを提供し続ける、業界の煮干レジェンド8軒をご紹介します。
1.【青森】『まるかい』青森市のソウルフード 淡麗煮干ラーメンの先駆
ラーメンフリークにはお馴染みのご当地ラーメン「津軽煮干ラーメン」。煮干ラーメンを提供するエリアは青森県全域に及び、今全国に広がる煮干ラーメンブームの一端を担う県民のソウルフード。
そして以外と知られていないのが「津軽煮干ラーメン」には大きく2種類があるということ。動物系スープを使用しない淡麗系と、動物白湯を合わせる濃厚系。ここ十数年ではその両方を提供するお店が多いが、それぞれに元祖と言われる二大巨頭が存在する。
淡麗系の煮干ラーメンを最初に広めたのが『まるかい』。青森市のシンボルである三角タワーの麓に位置し、青森市で煮干ラーメンと言えばまず最初に出てくるお店。そば出汁のような綺麗なスープにこれでもかと主張する煮干香。一見和出汁を彷彿させる魚介感だが、ギリっと醤油ガエシが効いたスープにそばのような甘味はなく、その醤油辛さが麺の甘味を持ち上げる。うどんのようなモチモチとした麺は食べ応えのある中太麺。かん水の影響による麺の硬化は見られず、ゆえに小麦特有の心地良い風味を堪能できる。
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店名:まるかいラーメン
住所:青森県青森市安方2-2-16
電話番号:0177-22-410
2.【青森】『たかはし中華そば店』全国からファンが集う 濃厚煮干ラーメン日本チャンプ
『まるかい』の淡麗系煮干ラーメンに対し、濃厚系煮干ラーメンの代表は『たかはし中華そば店』。煮干好きならば一度は聞いたことがあるであろう煮干ラーメン界のレジェンド。こちらのお店に影響を受けたことで有名なのが歌舞伎町ゴールデン街の『煮干王』。今でこそ王を名乗っているが(笑)、店主を初めて『たかはし』に連れて行ったときのリアクションを今でも覚えている。濃厚豚骨スープに負けじと投入された大量の煮干群。和食の道ではエグミをNGとするが、エグミを旨味と捉えたであろうインパクトが、煮干中毒者を続出させている。麺は『まるかい』よりも若干硬質な低加水の食感。なので小麦の風味は強く、豚骨煮干スープと四つに組む力強い印象だ。
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3.【福島】『源来軒』三大ご当地ラーメン「喜多方ラーメン」の元祖
札幌ラーメン、博多ラーメンと並んで日本三大ご当地ラーメンの一つに数えられる喜多方ラーメン。比較的狭いエリアにラーメン店が軒を連ね、早朝から営業するお店が多いのも特徴だ。昭和元年に創業した「源来軒」が喜多方で現存する最古参のお店で、あっさりとした醤油味に煮干が香る喜多方ラーメンの原形を作った。麺は平打ちの熟成多加水麺。ツルツルとした食感が特徴で、独特の縮れがスープをよく絡め上げる。『源来軒』は中国より渡った潘欽星氏が昭和元年に創業。中華麺の作り方を惜しみなく伝え喜多方ラーメンの礎を作った同店。黒豚に鶏、煮干を合わせた醤油スープに平打ちの熟成麺。機械を使わず手打ち特有のモチッとした食感を楽しめる。
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4.【新潟】『杭州飯店』新潟燕・三条に構える 煮干ラーメン界の王様
新潟県には新潟市内に多い「あっさり煮干ラーメン」、旧巻町発祥の「割りスープ付き味噌ラーメン」、長岡「生姜醤油ラーメン」、そして表題の燕・三条「背脂煮干ラーメン」(一般的に燕・三条ラーメンと言われる)の計4タイプのご当地ラーメンがある。中でも圧倒的なインパクトを示すのが「燕・三条ラーメン」。洋食器工場が立ち並ぶ燕・三条エリア。高度経済成長期の頃はお昼時ともなれば、一回に数百杯ものラーメンが注文されることもあった。出前の際伸びないようにと麺は極太に、冷めないようにと大量の背脂がかけられた。この形を作り上げたのが昭和10年に燕で屋台を引き始めた現『杭州飯店』の先代。仙台の屋台で煮干ラーメンを学び、土地の風土・時代のニーズに合わせ発展させたソウルフードだ。
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- 杭州飯店
- ラーメン 弥彦線西燕駅 徒歩10分
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5.【山形】『満月』庄内の煮干ラーメンを牽引する「月系」の筆頭
山形県酒田市を中心に庄内地方で提供される魚介系のラーメン。歴史は古くそのルーツは大正まで遡る。昭和に入り「大来軒」が開業。戦後「大来軒」で修行した「三日月軒」そして、多くの弟子を輩出する「満月」が開業した。特徴は煮干と昆布が主体のあっさりとしたスープ。お店によって豚や鶏を使い動物系の旨味を加える。自家製麺比率が高くボリュームが多いのも特徴で、薄皮のワンタンを出すお店が多い。『満月』は酒田ラーメン店の代表格で、「月系」と呼ばれる屋号に月の字が入るラーメン店の筆頭。新聞が透けて見えるほど極薄のワンタンが人気で、贅沢にトビウオの焼干を使用したキレのある醤油ラーメン。最近では麺、ワンタンにシルクを配合しなめらかな食感を演出する。
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6.【山形】『ケンちゃんラーメン』山形の二郎とも言われる ボリュームと煮干の圧倒的インパクト
『ケンちゃんラーメン』と言えば、山形の二郎ラーメンとも言われるほどに極めて凶暴。麺量は小サイズで他店の大盛りの量をはるかに凌ぎ、自家製の極太麺は、咀嚼する顎の疲労感を誘う。しかし、このラーメンを形容するに、まず出て来るのは「うまい!」の一言。バッチリと効いた醤油のかえしに豚の油脂感。そしてなんとも言えぬ煮干の芳香。麺は他に類を見ないうねるような縮れ麺ながら、小麦の風味が全面に出る新鮮な仕上がり。強者×強者で反発し合いそうな両者ながら、口内に入るとしっかりと腕を組むのがこちらのラーメンの不思議なところだ。さらにインパクトを求めるならば「油ぽく」という脂身のトッピングも用意されるのでそちらを注文するのを勧める。
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- ケンちゃんラーメン 本店
- ラーメン 連絡バス(庄内空港-酒田) 酒田駅 徒歩18分
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7.【秋田】『伊藤』こちらの屋号が煮干ラーメンブームの火つけ役
秋田県に『伊藤』ありとその名を全国に轟かせる希代の煮干ラーメン店。店主の伊藤氏は元々銀座の寿司店で経験を積んだ寿司職人。家庭の事情で帰郷し1988年地元のニーズに合わせラーメン店を開業した。提供するのは「支那そば」と「肉そば」の二品のみ。煮干の香りがふわっと沸き立つキレのあるスープに、自家製の力強いストレート麺が絶妙の相性を魅せる。オススメは「肉そば」。煮干ばかりが注目されがちだが、スープの根幹を支えるのは比内地鶏。しかもガラではなく丸鶏を使う贅沢仕様で、煮干の力強さを芳醇に包み込む。化学調味料を使用しない味作りで食材本来の味を導き出している。暖簾も看板も出さない普通の民家で提供されるこだわりのスタイルに、他県からの来客も多い。
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店名:自家製麺 伊藤
住所:秋田県仙北市角館町金山下115-66
電話番号:0187-54-4077
8.【岩手】『たらふく』三陸に存在感を示す 唯一無二の淡麗煮干ラーメン
盛岡で屋台を引いていた初代店主が、その後宮古で昭和28年に店舗をかまえた老舗。淡く澄みきったスープに自家製の手揉み麺が泳ぐ独特のスタイルが人気だ。地元の薄口醤油でととのえるスープに麺の甘味が溶け出す三陸特有の味わい。湯気とともに立ち上る煮干の香りに、これぞ港町と心が躍らされる。麺は加水を抑え、一日しっかり寝かしてから提供。手もみを加えることで『たらふく』特有の縮れ感が生まれる。全国ご当地ラーメン数あれど、類似のラーメンが見当たらない唯一無二の一杯だ。オススメは『中華そば』。メニューに大盛りは用意せず、中華そば一本で勝負する潔さ。たくさんの食材を使うのではなく、材料の特性をとらえ、あえて数をしぼる引き算のラーメン作りで先代の味を引き継いでいる。