揚げネギの香ばしさとモヤシの清涼感が鉄板の組み合わせ
道玄坂の『喜楽』。渋谷に馴染みのある人間ならば、ラーメンフリークでなくとも一度は聞いたことがあるであろう定番のグルメスポット。
平日でもお昼どきともなればどこからともなく人が集まりたちまち行列ができる。大学生と思しき若者からサラリーマン、家族連れまで。渋谷という場所ながら、老若男女問わずこのお店に魅了された人々が繰り返し通う、常連に支えられているお店という印象だ。
私が初めて『喜楽』を訪れたのはちょうど20年前。
コンビニでラーメンガイドブックを購入したところ、巻頭で特集されていたのを見て。当時のラーメン潮流といえば濃厚真っ盛りな時代。セレクトの半分は豚骨ラーメンか背脂ラーメン。中には中華料理店の広東麺なども載っていたり。
そんな中で、揚げネギが浮いた醤油スープに完熟味付き玉子というビジュアルが一際目をひいたのを覚えている。
『しぶや百軒店』のゲートをくぐり、間も無くその行列に出くわす。行列といえどもそこまで長いわけではなく、シンプルなメニュー構成のためかお客の回転は速い。入り口まで行くと一階と二階に振り分けられ、二階行きの場合階段に並ぶことになる。
醤油ラーメンのメニュー名は「中華麺」。
「ラーメン」という名称が世に出回ったのがチキンラーメン(昭和33年発売)以降と考えると、昭和27年創業という歴史が裏打ちされる。
提供された一杯から立ち上る芳ばしいネギ油の香り。老舗にありがちなあっさりとした物足りなさはなく、力強い醤油とたっぷりの油感が若者のニーズにもマッチする。そしてもやしのシャキシャキとした清涼感。もっちりとした平打ち麺も特徴的で、スープに負けじと存在を主張。半熟主流の今、完熟味付き玉子で一杯を締めくくる。
創業者は台湾の出身。故郷のラーメンを日本に広めるために、アレンジして作ったのが「中華麺」の原型。確かに中華料理の名店ではラーメンにネギ油が使用されることが多い。チャーハンを始め他の料理でも頻繁に使用するためだ。
要するにそば文化から発展した「支那そば」全盛の時代に、こってり芳ばしい中国由来の揚げネギラーメンを持ち込んだのがこちらのお店。そのスタイルを守りつつ、時代とともにマイナーチェンジを繰り返した結果生まれた安定の一杯は、今後も長く渋谷の街に愛されそうだ。