カレーやラーメン、餃子に大衆酒場など、様々なグルメジャンルに特化して食べ歩きをされている著名ブロガーがキュレーターとなり、選りすぐりのグルメ情報を毎日お届けしている「メシコレ」。今回はキュレーターの皆さんの食べ歩き事情やグルメトレンドに迫るインタビュー企画として、全国のカレー情報を発信していただいているカレー細胞(H.Matsu)さん(以下、カレー細胞さん)にお話を伺いました。
カレー細胞さんはこれまで東京を中心に全国のカレーを2,000軒以上食べ歩いてきた自他とも認める大のカレーマニアです。今回は、そんなカレー細胞さんの食べ歩き事情やカレーの魅力、関東や関西での新しいトレンドなどについてご紹介いただきました。
毎日カレーを食べ歩く、カレーマニアの食べ歩き事情とは?
●これまで2,000軒以上という驚異的な数のカレーの食べ歩きをされているカレー細胞さんですが、カレーの食べ歩きを始めるようになったきっかけは何だったのですか?
私は出身が神戸で、当時「インド人もびっくり 印度屋本店」という、今でも語り草になっているお店がありました。実はそのお店が初めて常連になったカレー屋さんで、高校生の頃に週2~3回は通っていましたね。高校卒業後、私は神戸を離れて上京したのですが、その後阪神大震災があり、その常連だったお店があった場所は一番被害が大きかったエリアだったため、残念ながらそのお店のカレーは味わえなくなってしまいました。それから、「あそこのカレー美味しかったな~」という思いから、そのお店の味を求めてというわけでもないのですが、カレーを食べ歩いている中で色々な美味しいカレーと新しく出会うようになり、次から次に食べ歩くようになっていったというのがきっかけです。
●実際、カレーの食べ歩きはどれぐらいのペースで行われているのですか?
仕事の合間や出先、プライベートの時間などを合わせると、1日1~2回ぐらいは平均してカレーもしくはスパイス料理を食べていますね。毎日カレーを食べるとなると、栄養のバランスも大事になってきます。小麦粉たっぷりのカレーばかり食べていたら太ってしまいますからね。ですので、日本のカレーライスを食べた次の日はサラサラの南インド料理やタイ、ミャンマーのカレーを食べたりと、バランスを取っています。基本的に、カレーは毎日食べていても飽きるものではないです。
カレーとは「抽象概念」だ!
●確かに、カレーはバリエーションが豊富ですよね。
カレーというのは単体の料理ではなく、ある種の「抽象概念」ですから。
美味しんぼの海原雄山の「カレーとは何だ?」という名言があります。そこで私が思ったのは、「カレーが何かというのは、自分の記憶がよく知っているだろう。」ということ。つまり、日本人のほとんどの人に子供の時に食べたカレーの原風景というものがきっとあって、カレーを食べたときにその記憶が蘇って「これはカレーだ!」と思えばカレーなんです。逆に、いくらスパイスを使っていて、ごはんの上に乗っていても、昔の記憶とリンクしなければそれはカレーではなくて、例えばスパイシートマトソースだなということになるわけです。
●スパイシートマトソース(笑)
ですので、本当に私はカレーのことを抽象概念だと思っています。日本文化で育った人の中の、子供の頃に見た原風景というのがカレーの中心で、その記憶にアクセスする食べ物がカレーだと思っているんです。ですので、日本人が言うカレーの概念はアメリカの人には理解ができないし、タイ人にもインド人にも理解できないと思います。彼らがカレーと呼ぶのは、違う範囲のものですからね。
そういう意味では、日本ほどあらゆるジャンルの料理が「カレー」として提供されている国は他にはないので、日本は世界一のカレーの国だと思います。さらに、その中でも最もバリエーションのある料理が集まっている東京は世界一カレー文化が豊かな街ですから、東京という地に長く住んでいる人として、カレーを紹介するっていうのは必然的というか、「日本のカレーのすごさ」をもっともっと広めていけきたいと思っているんですよね。
●カレー細胞さんは時々海外に行かれることがあると思いますが、今まで他の国に行って日本のカレーのすごさを体感されたことはありますか?
食べ歩きを始めた当初は毎日カレーを食べなければいけないと決めていたので、アメリカに行った際にチューブ式のカレーを持っていったことがあるんです。それを常に持ち歩いていて、親しくなったお店の人に「これが日本のカレーだよ」といってプレゼントしてみるのですが、食べた瞬間のアメリカ人のリアクションがすごいんです。眉がぐっと上がって目が丸くなって、とても感動していて。私たちは当たり前のように食べていますけど、これは実はすごい食べ物なんだなって改めて気づかされましたね。
関東・関西でそれぞれ違う、カレーの最新トレンドとは?
●最近のカレーのトレンドとして、カレー細胞さんはどのようなものに注目されていますか?
まず東京は「お酒を飲めるカレー屋さん」ですね。
カレーと聞くとカレーライスを思い浮かべる人が多くて、一皿食べたらそれだけでお腹いっぱいになるっていうイメージがあると思いますが、最近はビールや焼酎、ワインなどと一緒に楽しめるお店が増えてきています。そういうお店は1つずつの料理の量が少なくバリエーションがたくさんあって、単価も安いです。しかもそれはカレーライスではなくて、インド料理やネパール料理、スリランカ料理などの本格派のスパイス料理の要素を取り入れたお店がすごく増えていますね。
ここには2つのポイントがあって、1つはお客さん側が気軽に立ち寄りやすいという点です。今までは、カレー屋というとハイカロリーなお店というイメージを持たれがちだったのですが、飲みながら気軽に食べられるということで、そのイメージを払拭できているというところがありますね。もう1つは、カレーは本気で作ろうとするとやはり手間がかかるので、お店側はなかなか儲かりにくいんですよね。しかもカレーは家でも気軽に食べられるので、単価も上げにくく、ビジネスの勝機を見いだしにくいんです。そのような中で、最近だと飲めるカレー屋さんという成功例があちこちできてきているので、「あれならやっていけるかも!」というお店が増えてきているというところがありますね。
カレーとお酒の相性は?と聞かれることもありますが、辛いものと香りの強いものはお酒によく合います。それに、酒飲みは味が濃いものが好きですからね。カレー屋さんには色々な種類の味の濃いものがたくさん揃っているので、飲みのシーンでも本領を発揮するわけです。どうしても日本人はカレーと聞くと小麦粉たっぷりでとろみがある「カレーライス」を思い浮かべてしまいますが、カレーはそれだけではないので、お腹が膨れるというイメージが邪魔しているのはもったいないですよね。
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次に関西は、やはりスリランカカレーですね。
ここ数年でスリランカ料理・スリランカカレーというのがとんでもない勢いで盛り上がっています。スリランカ料理屋さんだけではなくて、カレー屋さんが出すカレーもスリランカのエッセンスを取り入れたものが増えていますね。関西には、東京にはあまりない「スパイスカレー」というジャンルがありまして、香りと刺激を中心に構成したカレーで、スパイスカレーとスリランカ料理は親和性が高くて、よりハイブリッド化していっています。その流行が東京にも最近じわじわ来つつあって、秋葉原の「カレーのトリコ」と吉祥寺の「ピワン」は完全に関西のスパイスカレーだよね、という感じのお店です。
福岡あたりだと、最近は南インド料理がようやく根付き始めた感じですかね。
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●地域によっても、カレーに違いはあるのでしょうか?
関東と関西では、生まれ育ったお家カレーがそもそも違います。関東はポークが中心で、東京だと豚のカレーがないとやっていけないと昔から言われています。一方で関西は牛のステータスが高いので、牛肉が入っていることが多く、生卵を落として混ぜて食べたりします。これは関東の人はあまりやらない習慣だと思います。
関西ではお家カレーの時からこの文化に慣れているので、カレーを混ぜて食べることに全く抵抗がないんです。ですので、ぐちゃぐちゃに混ぜて食べるスリランカカレーも何の違和感もなく受け入れられています。一方、関東の人は混ぜて食べることはお行儀が悪いという思想があるので、なかなか根付かなかったわけです。やはりカレーは国民食なので、子供の頃の記憶が地域性を生んでいるのだと思います。
インド人はナンを食べない?!ここが変だよ日本人のカレーの常識
●さきほど日本は世界一のカレーの国というお話がありましたが、例えばインドでカレーを頼むと、日本で食べているものと全く違うカレーが出てきたりしますよね。日本は世界中のカレーが食べられる一方で、誤って広まってしまっている慣習などもあったりするのでしょうか?
インドのカレーというと、バターチキンとナンが本格的なものだとマーケティングによって日本人は思い込まされているのですが、実際はナンを食べたことがないインド人の方が多いですし、タンドール窯のようなコストがかかるものは一般家庭にはまずないです。バターチキンのようなリッチなカレーは、毎日食べるものではないんですよね。
ちなみに、東京でナンとバターチキンをウリにしているインド料理店の場合、従業員の方のほとんどがネパール人かバングラディッシュ人なんです。彼らが出稼ぎで日本に来て、まず最初に、「大きいナンとバターチキン、タンドリーチキンを出すと日本人は喜ぶ」と教えられます。それを聞いて、ナンなんて食べたことがない人がナンの作り方を勉強して作り、それを食べた日本人が「やっぱり本格的だね」と言っているわけですが、そこにはインドのイの字もないんですよ。もちろん、全てのお店がそうというわけではないのですが、「インドの三ツ星ホテルで修業した、本場のシェフが手掛けるインド料理」というのがウリのお店は、「インドの三ツ星ホテルで中華を担当していたネパール人シェフ」というのが実態というところが多いですね。
日本人にも「ナンがないインド料理店は本格的じゃない!」と言う人がいますが、インドで実際によく食べられているのは、ナンではなくてチャパティです。ナンなんか毎日食べたら太ってしょうがないですよ。それに本場のナンは、あんなにふかふかで大きいものではなくて、みしっというタイプのものですからね。
そのことについては、メシコレで最初に書いた記事に詳しく書いていますので、東京に住んでいる方は、まずはこちらのお店で本当のインド料理を体験してもらえるといいかなと思います。
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インド料理の固定観念が180度変わる珠玉の12軒in東京
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●最後に、メシコレの読者の皆さんにメッセージをお願いいたします。
私はカレーの本質は文化のミクスチャーで、文化がミックスされることで、新しい香りや味わいが生まれているのだと思っています。例えば、日本海軍が英国海軍をまねてカレーを取り入れ、ごはんが主食の日本人に合わせて、パンではなくごはんの上にカレーをかけたことがカレーライス普及のきっかけであったりすることを考えると、すべてカレーの成り立ちは異文化交流なんですよね。東京は様々な文化がミックスして、思いもよらないような発明やカルチャーを生んでいく街ですので、東京ならではのカレーがいっぱいあるということを誇りに思ってほしいですし、海外の人たちにも知ってほしいなと思います。
あともう一つは、日本のカレーライスにもう一度光を当てたいですね。最近では、日本の子供のころから慣れ親しんでいるカレーライスという本来中心であるはずのものが最近ではおろそかになってしまっている気がするので、外食文化の中でももっと大事にしていければと思います。
いかがでしたでしょうか?カレー細胞さんのお話を踏まえ、普段何気なく食べているカレーを見つめ直してみると、今まで気づかなかった新しい気づきや楽しみ方が色々と見つかると思いますよ。インタビューを読んで、カレー細胞さんのことをもっと知りたいと思った方は、是非こちらもチェックしてみてください!
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(撮影協力:カーン ケバブ ビリヤニ 銀座店)