メシコレからのお知らせ
開く
「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト
「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

最終更新日 : 2017/01/12

この記事をシェアする

  • LINEで送る
やもとかおる
やもとかおるさんを
フォローして更新情報をチェック!

メシコレ アカウントをフォローして
メシコレの更新情報をチェック!

パン好き小麦映像クリエーターのやもとかおるです。
小麦畑の写真や映像を撮影し、小麦の素晴らしさを伝えるため北海道を拠点に活動しています。

今回は札幌の隣・江別市にある「パン屋 sora」をご紹介したいと思います。

 

■北海道産小麦パンの歴史を開いた「ハルユタカ」

北海道産100%でパンが出来る時代になり30年。
これを使用するパン職人の増加と共に道産小麦パンが気軽に食べられるようになりました。
小麦の国内総生産量の6-7割を占める北海道に住む一人としてとても嬉しい時代になったと感じています。


北海道では地元の道産小麦を使おう!という「麦チェン」運動が行われています。
スタートしてから6年間で330店にまで増えました。


この運動が始まる以前は、道産小麦の品種特性と使い方についての理解が進んでいなかったので「北海道産小麦で高品質な食パンは出来ない」と言うパン職人が結構いました。
それから少しずつ道産小麦の利用と知識の普及が進むにつれてその認識も改善されていきました。
もともと日本のパン職人は世界的にみても高い技術力を持っているので、知識を習得し認識が変われば出来るということもこれらの変化の中で解ったことの1つです。

 


北海道産パン用品種の先駆けとして有名な「ハルユタカ」はその品種独自性に定評を得ていますが、ここまで来るのに30年かかりました。
この小麦が生まれる以前は、「国産小麦で高品質な食パンは出来ない」と言われていた時代でしたがこの概念を換えたのがハルユタカでした。

 
しかし、その歴史は順風満帆ではなく、北海道農業の「時代の流れと変化」とともに急速に生産されなくなり、ついには『 幻 』と呼ばれるまで稀少な小麦になっていきました。
市場流通性も低くなり、入手が困難な小麦粉になってしまい、これを通年使えるパン屋さんは限定的になってきています。


今回はこの小麦を使っているパン屋さんに焦点を当てました。
それもハルユタカの一大産地、江別のパン屋さんです。

 

■「ハルユタカ」を使っているパン屋さんを探して行こう

道産小麦のパンを食べられるお店が増えたのは事実ですが、「ハルユタカ」のパンは日本全国どこでも買えるパンというワケではありません。
これを食べるとなると
「ハルユタカ」を使っているパン屋さんを探して行くしかないのです。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■ハルユタカのハードトースト 1斤¥230

パンの特長について店主からのコメント
「 なるべく小麦粉の素材感が出るようにシンプルな配合、小麦粉・水・塩・イースト・モルトというようにフランスパンに近い配合です。
これに、『 酒種 』を足して風味を出しています。焼き上がりがパリッとするように焼成温度を工夫しています。」

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

ハードトーストとその名の通り、クラストはフランスパンのようにパリッとしています。
砂糖、油脂、乳製品を使っていませんが、充分な甘み、口当たりの柔らかさと保湿感を感じます。

・そのまま食べると

「ひき」が強く適度なモチ感を感じます。
咀嚼回数もそれなりに多くなるので、口腔内で感じる甘みと塩味が増し、喉越しに至るまで食べている!という実感が持てます。
この感覚が好きで北海道産小麦のパンに魅了されました。
パンもご飯のように噛み応えがあって、咀嚼回数が増えるたびに甘さが広がるような、そんな食パンが好きです。
「砂糖、乳製品、油脂不使用」とシンプルな配合ですから、炊いたお米を食べるのと似ているといえば似ていますよね? 

・トーストすると

トーストすると「ひき」の強さが緩和されると同時に、クラストはさらにパリッと!生地の食感はサックリとして歯切れが軽くなります。
それに、酒種の香りが立ち上がり、生地がフワッッフワになります。再加熱(リベイク)って素晴らしい♪


同じパンでも、そのまま食べるかトーストして食べるかによってパンの食感は大きく変わります。
クラストのハード感と生地のモチ感を味わいたい場合はそのままで食べて、香ばしく軽く食べたい場合はトーストをお勧めします。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

もう1アイテム、北海道産小麦を使用したパンがあります。
それが次のキタノカオリのパンです。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■キタノカオリのミルクハース 1本360円

パンの特長について店主からのコメント
「 キタノカオリは、他には無い個性を持っていて、お店で出したいと考えていました。
100%で使うと強力粉なので強すぎるため、ちょっと薄力粉をブレンドして程良い食感に調整しています。キタノカオリ特有の甘さを引き出せるように(水ではなく)牛乳で仕込んでいます。」

■ハルユタカとキタノカオリの関係

このキタノカオリという品種はハルユタカと無関係ではありません。
その生まれをひも解くと~
ハルユタカの育種開発の中心的存在であるO氏がキタノカオリの育種に関わっているからです。
キタノカオリは、ハンガリー小麦GK Szemesを父に、ホロシリコムギを母に持ちますが、このホロシリ小麦の育種者の一人がO氏なのです。
つまり、ハルユタカとキタノカオリの育種には同一人物が関わっていたということです。おどろき!
品種特性は全く別もので、キタノカオリらしい個性があります。
その個性とは

・製パン性に適した遺伝子型を持っている。
・カロチノイド含有量が多いため黄色みがかっている。
・低アミロース品種のため、老化が遅く、柔らかいパンが出来る。
・何故か " 甘い "

この最後の「甘い」という個性を活かすため
水ではなく、牛乳を使うことで生地の甘さを際立たせています。
キタノカオリの甘みと牛乳の甘みの2重層です。
もう1つの個性「柔らかいパンができる」という個性を活かしつつ
薄力粉をブレンドして、歯切れが良く口溶けの軽い食感に仕上げています。
先のハルユタカのハードトーストと大局的な とても易しい口当たりのパンです。
この2つのパンを並べてみると
同じ強力粉品種でも品種の個性やブレンドの仕方によっては、全く異なるパンが出来るってことが解ります。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■北海道産小麦を使う理由

店主「元々自分自身は、国産の小麦粉を使ったことがなくて、自分で出来るのかなぁという抵抗みたいなのがありました。
実際に江別でお店をやるからには、北海道産の小麦粉を使わないわけにはいかない と。
お客様から道産小麦粉のパンを求められていることもありましたし
自分自身が道外出身者でもあるので、ここ江別を地元として意識しながら作ってみようという考えもあり使い始めました。
現在、ハルユタカ、キタノカオリを使った2種類のパンを出していますが
今後は、何アイテムかは出したいなと思っています。」

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

photo/外麦使用経験の方が長い森本さんですが、道産小麦への関心も高く、第3回北海道バゲットコンクール本選に出場しフランスパン友の会賞を受賞しました。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■畑で収穫してパン屋さんに届くまで、わずか30分の距離

江別がハルユタカの里と呼ばれるようになったのには、一大生産地であることも理由の1つですが、ハルユタカと関わってきた人が多くいてこの品種と共に歩んできた歴史があるからです。
パン屋Soraさんのところから30分くらいの距離にハルユタカの畑が広がっています。
製粉会社も畑のすぐ近くにあります。


畑で収穫して製粉されてパン屋さんに届くまで、わずか30分の距離

こういう地元ならではの恵まれた環境にあるため、Soraさんのパンが小麦畑から続いていることが見えてきます。

 

■パン = 農業

雨が多い年、晴れが多い年、台風に襲われる年、色々ありますが
その度に今年の小麦は良い出来だ とか 雨が多いなぁ とか農業の大変さを実感しながら
生育年の天候によって小麦の出来が違うように、小麦粉が出来る量も品質もまたその影響を受けます。

ざっくりとした言い方ですが
小麦が育った環境がパンにも現れます。


言い換えると

 
パンを通して小麦畑(北海道農業)を見ている ということ。

 
パン = 農業 です。

 


そうです。
北海道農業の発展と共に道産小麦パンの歴史もあるのです。
ハルユタカが誕生したのも農業の発展と歴史の上にあるわけで、農業が発展してこなかったら今こうしてハルユタカのパンを食べられてはいなかったでしょう。
パンが食べられるのは農業あっての小麦栽培であり、生産者あってのハルユタカなのです。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■幻の小麦「ハルユタカ」

現在ではハルユタカは生産量も少なく、市場流通性も高くはありません。
生産量が3,000tを下回っているため
需要の多さに供給が追いつかないという「需要と供給のバランスが崩れた状態が慢性化」し、出荷出来る範囲が益々限定的になっています。
この3,000tという数字にも意味があり、一般入札が行われる品種は全て3,000t以上の生産量があり、広く売り買い出来るしくみになっています。
しかし、ハルユタカは非上場品種でニッチな品種と言われています。
市場価格は90,000円/tという高値を付けていますが、それでも人気があるため「買いたい」という人は増加傾向にあり、供給が追いつかない状況が続いています。

 


■ハルユタカを使えるパン屋さんも少ない
普及当初から「春播き品種」「国産強力品種」として輪作体系の1役を担い(また、コメ作からの転作奨励金や秋播き小麦以上の利益が期待出来ることから)、作付けが急増しました。
天候にも恵まれこともあり収量も充分にありました。
順調な船出をしましたが1992年、93年と2年連続の大不作を経験。(第1次不作年)
その後の第2次不昨年の98年から2000年にかけては、補助金制度の変更と春播き新品種「春よ恋」の誕生が重なり、春播き小麦の座を「春よ恋」に譲ることになります。
最盛期には10,000ha(平均5,000ha)あったのが700ha弱まで減少します。
近年では、2009年-10年も天候不順により大不作(第3次不作年)となり
作付け面積が減った上に反収も下がり、品質も低下したため小麦粉製品自体の供給が厳しい状況になりました。
ますます入手困難になり『 幻の小麦 』となっていきました。

ハルユタカを使えるパン屋さんが少ない ということも理解して頂けるかと思います。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

■ハルユタカはパン用じゃなかった?

その昔、国産小麦で唯一の強力品種「ハルヒカリ」の後継品種として「ハルユタカ」(1987年品種登録)は誕生しました。
「ハルヒカリ」は強力品種として期待されていましたが、倒伏しやすく(穂発芽するリスクが高まる)、収量が低いという欠点を持っていました。
その後継品種である「ハルユタカ」もまた高タンパクという性質が評価されていましたが病害に弱く、穂発芽耐性が低く、ハルヒカリよりは高収量ではありましたが、一等級品質が少ないという欠点がありました。
その用途を考えた時、国産では高タンパクであっても、それでもカナダ産1CWよりタンパクは低く、吸水率も低かったため、遺伝的に製パン性が劣るとされていました。製パン性に適している遺伝子型Glu-D1dを持っていなかったためです。

このような品種特性上の難点を持っていましたが、パン用小麦と言われるまでになったのにはそれだけの理由がありました。
「高タンパク」という特徴がパンに携わる関係者達を鼓舞したのでした。


「 もしかしたら国産小麦でパンが出来るかもしれない 」


この一点に尽きるかと思います。
1985年に誕生し、品種登録される1987年のわずか2年間に
国内初の北海道産小麦100%パンの販売へとこぎつけた という歴史があります。
「出来るかもしれない」がついに現実のものとなったのです。
ハルユタカがパン用小麦の歴史を開いた瞬間でした。

 

■ハルユタカの味とは

一時代を築いてきたこの品種の味を言い表すとしたら
歴史を切り開いてきた開拓者の味
時代の認識を換え北海道産小麦の可能性を示した味
天候不順に泣いた味
生産者が離れていった苦い味
多くの辛い出来事を経験し乗り越えて今に至る味
そして、誕生してから30年間、人と人を繋いできた味


改めてこの食パンを味わってみて下さい。
ハルユタカが歩んできた歴史
小麦畑からパン屋さんへとつながる過程
北海道という恵まれた環境そのものを感じることが出来ると思います。

「幻」と呼ばれる稀少な小麦!ハルユタカの小麦畑を感じるハードトースト

営業時間/8:00~17:00(土日祝は8:00~16:00)
駐車場/10台くらい(銀波露と共有)

紹介しているお店はこちら!

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

※本記事は、2017/01/12に公開されています。メシコレで配信している記事は、グルメブロガーの実体験に基づいたコンテンツです。尚、記事の内容は情報の正確性を保証するものではございませんので、最新の情報は直接店舗にご確認ください。

最近見た記事

    都道府県

    メシコレの最新記事を逃さずチェック!

    メシコレのアカウントをフォロー

    この記事もオススメ閉じる