今年4月開局した渋谷区のコミュニティFM『渋谷のラジオ』(87.6MHz)。その中で毎週金曜14時から放送される番組『渋谷のぐるなび』では、毎回1名のメシコレキュレーターさんをお招きし、渋谷区の美味しいグルメ情報についてお話を伺っていきます。当サイト・メシコレでも、ラジオでお話しいただいた内容を毎週ダイジェストでお届けしていきます。
今回は、7月1日に第13回ゲストとしてお招きした、ラーメンキュレーター『田中一明さん』の回をお届けします。
『渋谷のラジオ』
https://shiburadi.com/
(スマホアプリを使えば、全国どこからでも視聴可能です)
第13回ゲスト:田中一明さん(ラーメンキュレーター)
MC)今回は「ラーメン官僚」という肩書きでも知られている、ラーメンキュレーターの田中一明さんにお越しいただきました。早速なのですが、「ラーメン官僚」というだけあって、お仕事は官僚なのですか?
田中さん)すごいダイレクトな質問ですね。通称「ラーメン官僚」と呼ばれていることは確かです。TwitterやLINE上で、よく官僚と呼ばれていますね。実際のところは、ラーメン好きの公務員です。色々なことをやっているのですが、テレビや本の取材など、全部無償でやっています。ラーメンを食べるというのは色々な地方に行ったりもするんですけど、お金はお財布からが出て行くだけです。
MC)お仕事ではなく、趣味の中で色々やられているのですね。
田中さん)やっていることは実質プロなのですが、お金を取っていないからプロじゃないということですね。
MC)ラーメンの食べ歩きをされてどれくらいになるのですか?
田中さん)一番最初にラーメンを外で食べておいしいなと思ったのが、中2のときです。僕は1972年生まれなので、1984~1985年ですね。その後、大学2年生の頃辺りからラーメン店のリピートを始めたんです。さらに色々なお店を回り始めたのは、21年前くらいですね。
MC)超ベテランですね。21年でラーメンのブームなどは結構変わりましたか?
田中さん)変わりましたよ。例えば、ラーメン店で10年経って残っているのは3%しかありません。
MC)そうなんですか!?100店舗で3店舗!
田中さん)人気のお店があるじゃないですか。人気だなと思っていても、2~3年行かないと、もう一回行ったときにはなくなっているということがほとんどです。
MC)ほとんど!
田中さん)100軒のうち97軒が入れ替わってしまうのがラーメン業界なんです。
MC)なかなかやっていくのが大変な世界なのですね。
田中さん)だから私たちラーメンフリークの家業のことを「もぐら叩き」とよく言うんですよ。
僕はこれまでに『渋谷のぐるなび』に出演されたラーメンキュレーターの中ではコレクター寄りです。要するに、どんどん新しい店を回るタイプです。例えば、今日オープンするお店を押さえておいて、時間があれば仕事終わりに行くという感じです。オープンから2ヶ月くらいの間にお店に行けなかったら遅いという感覚なんです。
MC)そうなんですね!
田中さん)なくなったお店の後にまた新しいお店ができたりするので、いくら新店に行ってもまた新しいお店ができてくるという、まさに「もぐら叩き」を延々と繰り返している感じです。
MC)田中さんは『渋谷のぐるなび』にご出演いただいた3人目のラーメンキュレーターの方なのですが、これまでのお二人の「ラーメン研究家」の方々とは、食べ歩きにどういった違いがあるのですか?
田中さん)「ラーメン研究家」の方々は麺やスープの研究をすることがメインです。新しいお店とかには行かず、どちらかというと情報は二次情報でいいんです。
MC)二次情報とは?
田中さん)新しいお店を見つけて「こういう店ありますよ。」と発信するのが一次情報です。それを受け取るのが二次情報。さらにそれを受け取るのが三次情報。よく皆さんがおいしいラーメン店に食べに行きますというのは、我々の中では誰もが知っている古い情報を耳にして行っているということです。
ラーメン研究家は新店ができたというタイプの新しい情報は求められていないんです。つまり、ラーメンにどういう麺が使われている、どういうスープが使われているというラーメンの組成、構造がどうなっているのかを研究するのがラーメン研究家の石山さんですね。山本さんのラーメン評論というのは副次的についてくるものなのですが、食べたラーメンをどのように字面で表現するかというものに特化したものですね。一方、我々のようなラーメンフリークは、要するに新しいお店に行って情報を発信し、受信した人に食べに行ってもらうことが目的なんです。渋谷のラジオも渋谷区のいいところを発信して、それによってラジオを聞いた方が「渋谷区にはこんないい場所があるんだ!」と行くじゃないですか。それと同じことを、私たちはずっと違う媒体でやっているんです。
MC)なるほど、すごくわかりやすいです。
田中さん)日頃から情報発信の練習をしているんですよ。私がラーメン店に行ったら、私は少なくとも2つ、多くて4つの媒体に同じ店のことを書かなければならないんです。まず一番最初に、その日のうちに書くのがTwitterです。Twitterは画像を入れてしまうと124文字しか打てないので、その文字数の中でラーメン店について述べるというのを何年間も自然としています。
次にそれを膨らませた情報をFacebookに流す。そこまでは自分の主観を織り交ぜて「このラーメンうまいよ」という「うまい」という言葉を使っていい。ただ、それをメシコレにアップするときは、「うまい」という表現を使ってはいけないんです。メシコレにラーメン情報として紹介する訳ですから、「うまくないお店を紹介してどうするの?」となるんです。ですので、「うまい」ということをどう表現するかというのがメシコレから先です。もっと先の究極的なものは、本ですね。ラーメン本は紙として残るので、一言一句無駄にはできないですし、何店舗か並んだときに同じ表現を使わないように工夫をしていくんです。だから同じ店について、4回書くことがあるということですね。
MC)なるほど。表現の幅を色々と持っていなければいけないということですね。
田中さん)はい。本はもちろん、色々な映像ものや、アニメなども見ながら、表現の幅を増やしていくようにしています。例えば、同じうまいというのも、「美味い」と「旨い」で意味が違います。「美味い」っていうのは、本当に美味しい。一方、ラーメン的に旨いというのは、どちらかというと油ギトギト系、こってり系のラーメンで要するに旨味調味料やそちらの脂ギッシュなうまさを表現するときに使います。
旨味を漢字で表現したときに「旨味が強い」とか「旨味が多い」というのは、ラーメンを食べていく上で褒め言葉ではないんですよね。最近のラーメンの中には、色々と旨味を入れたり素材を重ねたりして旨味が強いものも多いです。でも食べ飽きてしまいますね。そういうのは、旨味は強くても美味くはないんですよね。
MC)なるほど。勉強になります。それでは、田中さんに渋谷のおすすめのお店を紹介していただきたいと思います。
テーマ1:「鉄板のお店」
MC)まずは鉄板のお店からお願いします。
田中さん)渋谷の中では結構重鎮に属するお店、『はやし』さんです。こちらのお店は昼のみの営業で日曜定休と、結構営業時間が短いのでなかなかハードルが高いお店なんです。そんな中、なぜオススメかといいますとここはメニューを増やさないんですね。我々の世界でも「メニュー多き店にいい店なし」と、よく言うんですけども。
MC)そうなんですね。
田中さん)味噌、醤油、塩の三種を食べられるところは、例外はもちろんありますが大抵は味的に厳しいものがありますね。
『はやし』さんは、ラーメンと味玉ラーメンと焼き豚ラーメン。裏メニューに塩ラーメンはありますが、それだけをずっとやり続けているんですね。人間同じことを何年も続けて行くと、もう慣れたし違うメニューを作ってみたいとなりがちなのですが絶対に増やさない。渋谷のラーメン店って営業時間が長いお店が多いですし、最近のお店はやはりメニューのバリエーションが多いお店が増えていますが、その時流にあえて逆らって、孤高の道を一人歩むというイメージですね。私が知っている店の中でも10年以上経っていてメニュー数も増えないし、営業時間も延ばさない、こういう店はあまりないです。
MC)かっこいいですね。店構えも素敵で。
田中さん)ラーメンの味もオーソドックスそのものです。新奇性やオリジナリティ、今年は何が流行るのかといったものに惹かれる店主さんは確かに多いわけですが、最終的に行き着くのはやはり王道なんですよね。見ていただければわかるんですが、絵面がシンプルで美しい。スープが特段奇抜なものでないにもかかわらず、この味だけを10数年貫いている。そして、味的にはみんなが好きな動物系と魚介系のミックス。この王道たるや渋谷を代表するお店にふさわしいと思います。
MC)王道こそ代表する味、ということですね。続いては、知る人ぞ知るお店をご紹介いただけますでしょうか。
テーマ2:「知る人ぞ知るお店」
田中さん)南新宿にある、『ラーメンヤスオ』さんをご紹介したいと思います。細い道の脇に佇む非常に隠れ家的なお店で、もともとは雪が谷大塚にあって、上野毛に移転し現在は南新宿に移転してきたというお店なんです。ここのお店で是非食べてほしいのは「ラうどん」という上野毛のときからある大ヒットメニューですね。麺が超極太で、非常にうどんライクな麺が味わえるというのが特徴です。渋谷、新宿のお店って麺がスマートなお店が多いんですが、太麺にせよ細麺にせよ野性味があふれるとか、太さが不揃いとかそういう手打ちライクな麺ってあんまりないんです。更にここはその麺に非常にガッツリとしたスープを足し合わせる、このコントラストが『ヤスオ』の魅力ですね。
MC)たしかにちょっと麺がうどんっぽいし、見たことのないルックスですね。
田中さん)あと場所が非常に隠れ家的な場所にあるので地図を持っていかないと見つけられないかもしれないですね。皆さんぜひ探してみてください。
MC)なるほど!見つけにくいお店を見つけるというのも一つの醍醐味になりそうですね。それでは最後に注目の新店をご紹介いただけますでしょうか。
テーマ3:「注目の新店」
田中さん)注目の新店は、どうしても1店舗に絞れなかったので2店舗紹介させてください(笑)まず1店舗目は初台の『製麺rabo』さん。初台とか南新宿とか幡が谷は細い路地が多くて、隠れ家的に佇んでいる店が多いんです。こちらのお店はもともと初台の嗟哉(あなや)というお店の初代店主が独立してオープンしたお店で、鶏パッツン系と魚介。
MC)「鶏パッツン」というワードを初めて聞いたのですが…解説いただいていいですか?
田中さん)鶏肉、チキンの味を全面に出したラーメンを鶏パッツン系と呼ぶんです。こちらのお店は鶏を使わせたら天下一品で、スープの味を麺ごとに変えているんです。顔立ちは実にオーソドックスなんですが、実直に作られた美味しいラーメンが隠れ家的なところで味わえる。お一人様歓迎だと思います。
MC)そうなんですね。たしかに、実直というのが写真にも現れている気がします。
田中さん)やはりラーメン好きは、オーソドックスなラーメンに回帰するといいますか。20年、30年と食べていくと、こういういわゆる“ラーメンらしい顔立ちをしたもの”が食べたくなるんです。こちらは毎日でも食べたくなる、クセのない一杯だと思います。
MC)それではもう1つの注目新店をご紹介いただけますでしょうか。
田中さん)私がつい最近発見した一次情報になるかと思うんですが。もともとバー『ITACHI』というお店が東急文化村の近くにありまして、ここのお昼の時間を間借りしてラーメンを出し始めた『ITACHI RAMEN』です。
MC)店名を伺って、事前にHPを見てみたのですがラーメンに関する情報は載っていないですよね。
田中さん)そうなんです。最近流行りのスタイルなのですが、バーや居酒屋の”昼営業”でラーメン店で修行してきた方がラーメンを作るという業態が流行っているんですね。ここの店主さんは家系のラーメン店とか東京都内の有名店で色々と修行して、ここのお店の人の知り合いだということでお昼に中華そばを作らせてもらっているのだそうです。まだ看板もなくて、中華そばという提灯だけあったんですよ。
MC)看板がないんですか…!これ、私たちも入れるんですか?
田中さん)もちろん入れますよ。菅野製麺所という有名な製麺所の麺を使っていて、モッチリと歯に吸い付くような食感が多いのが特徴なんです。本当に小麦パッツンという感じで小麦がざっと詰まったような中太麺です。そしてあっさりとした透明感があるスープ。魚介系のスープでオーソドックスなタイプなんですけど、そのスープにあえて中太麺というたくましい麺を合わせることで啜ると麺が力強く感じるんですよ。そこにニンニクをたっぷり含んだ香味油で調整することで麺を啜ったときのスープと麺の一体感を演出している、そういう一杯ですね。
MC)田中さんが見つけたばかりというほやほやの情報を教えていただいたので、是非行ってみたいと思います。まだまだ聞こうと思えば5時間くらいはお話を聞けそうなんですけども…そろそろ時間になってしまいました。本日のゲストは田中一明さんでした。田中一明さんにご紹介いただいているお店についてもっと知りたい方は、ブログやメシコレを是非ご覧ください!
▼今回ご紹介いただいたお店の詳細はこちらの記事から▼
【永久保存版】マニア厳選!超激戦の渋谷区で押さえておくべき実力店4選
https://mecicolle.gnavi.co.jp/report/detail/8938/
▼田中一明さんのTwitterはこちら▼
https://twitter.com/kazutan0264
▼田中一明さんのメシコレ記事はこちら▼
https://mecicolle.gnavi.co.jp/curator/kazutan/
『渋谷のぐるなび』では、今後もメシコレのキュレーターさんを毎週ゲストとしてお招きし、渋谷の美味しいお店をご紹介していきます。毎週金曜日14:00~14:30で放送しておりますので、是非聴いてみてくださいね!
▽これまでの渋谷のラジオの模様はこちら
https://mecicolle.gnavi.co.jp/k60/?from_article