福岡県の2大ご当地ラーメンと言えば、皆さんご存知のとおり、福岡市の「博多ラーメン」と久留米市の「久留米ラーメン」の2つが有名ですよね。でもこの両ご当地ラーメン、あまりにも影響力がありすぎです。福岡市内や久留米市内では似たような豚骨ラーメンが多くて、よく言えば安定、悪く言えばマンネリ気味。ところが、福岡県全体がそういう状態かと言うとそうでもないんです。実は、バラエティ豊かな豚骨ラーメンを楽しめる地域があるのです。
それは、北九州市。
豚骨ラーメンが幅を利かせていることには変わりないのですが、福岡市や久留米市よりもバラエティに富んだ豚骨ラーメンが食べられます。さらに、なぜかわかりませんが、北九州市の外ではなかなか食べられない豚骨ラーメンもあったり!進化論に例えるなら、北九州市は独自の進化を遂げた
豚骨ラーメンのガラパゴス諸島
と言えるかもしれません。今回はその北九州市内に限定して、個人的嗜好で5軒選んでみました。それでは、どうぞ。
1.龍王(北九州市戸畑区) 優しい豚骨ラーメンとパンチのあるおにぎり
「昔ながらのラーメン屋さん」っていう言い方がありますよね?実は、戸畑区にその言葉を地でいく店があるんですよ。「龍王」っていう名前です。車を走らせていて気づくような立地じゃありません。狭い路地に入ると、いい感じに枯れた軒先が突然、現れるんです。ちなみに、店主は代替わりした二代目らしいです。
店は常連さんでいっぱい。一見さんはちょっとひるむかもしれませんが、大丈夫。「店を開いて30年以上(店員談)」のベテラン店ですから、新参者を受け入れる度量もあるんです。落ち着いて空いた席に座り、ラーメンを注文した後は昔ながらを楽しむために店内観察してみましょう。
四方の壁には様々な姿形の龍の絵が飾られていて、厨房の奥には大きな釜がご神体みたいに鎮座してるのがわかるはず。そして、注目はメニュー表。僕は10年ぶりに来たんだけど、黒地の短冊に白文字で書かれたメニューは相変わらず。誰も注文しないかもしれないのに「ファンタ 100円」はまだ残ってました。リアルにオールウェイズ感を感じられますよ!「ラーメン」は一杯550円。あ、博多ラーメンを想像していかないほうがいいですよ。まったく違いますから。
麺は少し柔めで、気持ち博多ラーメンよりも太め。で、メンマ、いや、これ実はタケノコらしいんですけど、とにかく甘いんです。きれいな乳白色の豚骨スープに焦がしたような匂いのする黄土色の油がふわっと浮かんでて、麺をゆっくり泳がせて食べてると、いつの間にか、なみなみあったスープが半分以下に減っている。レンゲが止まらないんですよね。あ、言い忘れてましたけど「おにぎり 50円」は必須のサイドメニューです。強烈にニンニクが効いた唐辛子をつけて食べてください!おにぎりだけで500円位使ってしまいそうになりますから。
僕も随分たくさんのラーメンを食べてきましたが、食べ終わった後に思わず「あぁ、うまかった」と言ってしまうラーメンはそうそうないです。戸畑へ行く用事があれば、予定を遅らせてでも行ってみてください。損はしませんから。
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2.ぎょらん亭 沼店(北九州市小倉南区) 限定解除の予定無し!濃厚豚骨ぎょらん亭味
※[編集部追記]こちらのお店は閉店しました。
一口に「濃厚豚骨」と言っても、色々な濃厚があります。ドロドロのやつ、骨がたっぷり残っているやつ、やけに油ギトギトのやつ。でも大抵は「どこどこみたいなラーメン」って例えで表現できることが多いんですね。でも「ぎょらん亭」の濃厚豚骨はどこにも例えられない。「ぎょらん亭」の味は「ぎょらん亭」だけなんです。
実は僕、10年位前にえらく「ぎょらん亭」にはまった時期がありました。支店やら暖簾分けやら弟子筋やら、それこそ店がオープンするたびに遠くは大阪まで追っかけてたんですけど、いつしかお店が減っていって「ぎょらん亭」は3店だけになってしまいました。で、ここ「沼店」は「本店」ではないけれど「ぎょらん亭」のラーメンを作り上げた大将が腕を振るっている店なんです。
「ぎょらん亭」の特徴は豊富なメニュー。色々ありますが「十割」が豚骨100%の濃厚ラーメン、「二八」が鶏ガラ20%、豚骨80%のあっさりめラーメン、これが基本です。僕は濃厚民族なので、今回も「十割」を注文しました。でその「十割」を食べたあとは、まず、胃にもたれます。とにかく重くって、どすんと腹にたまるスープ、これがやや甘めで、なぜかいつも「ぎょらん亭」の味だな、って思ってしまう美味さなんです。今回もやっぱり変わらない味でした。
「濃厚豚骨系ラーメン」をひとつの宗教だとしたら「ぎょらん亭」は確実に大本山級の店。にも関わらず、系列店や弟子を含めても北九州市やその周辺地域でしか食べられない、取材を好まない、早じまいが多い、少々変わった店です。
でもそういった拘りが「ぎょらん亭」の希少度を増していて、更なる魅力となっているのかもしれませんね。
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店名:ぎょらん亭 沼店
3.大平山 門司港本店(北九州市門司区) 食べる門司港レトロ
北九州市には「門司港レトロ」という観光スポットがあります。駅舎として初めて重要文化財に指定された門司港駅を中心に、大正レトロ調の建物が建ち並ぶ観光地です。その地で50年以上営業しているお店が「大平山 門司港本店」でも、門司港駅から少し離れたうら寂しいところにあるので、目指していかないとたどり着けません。
外観はご覧のとおり「おいおい、開いてるのかい?」と心配になりますけど、一歩入ると満席御礼!客を次々と捌く店員さんのテキパキした動き、静かな佇まいの外観と真逆の活気に驚かされます。老舗だけど「東龍軒」を展開する「有限会社たかお」系列なので接客教育がしっかりしてるのかな。アンケートはがきもあったりして、これはちょっと雰囲気と合わないような。
ラーメンそのものは、久しぶりに食べても変わりない「大平山味」でした。
甘め味濃いめスープ薄め。最初から振りかけられているコショウが不思議と合ってます。麺は豚骨ラーメンらしくない、少し太めの多加水麺。というか、何回食べても豚骨なんだか醤油なんだかよくわからないというのが正直なところです(^_^;)。でも、記憶に残る味っていうのは案外こういうものなんでしょうね。
ちなみに写真は「ミニラーメン 450円」観光ついでにお試しするにはちょうどよいサイズです。お店の雰囲気含めて、言わば食べる門司港レトロ一度試してみてください。
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- 大平山 門司港本店
- ラーメン JR鹿児島本線 門司港駅 徒歩7分
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4.東洋軒(北九州市小倉北区) 昭和37年創業。北九州発久留米ラーメンの大御所
北九州市のラーメンは多様な豚骨文化が特徴ですが、最も有名な店ひとつ挙げるならばこの店でしょう。1962年創業の「東洋軒」は、県外にもその名を轟かす久留米ラーメンのお店です。
まず、店に入る前にちょっと立ち止まって暖簾を眺めてみてください。
2匹の巨大な龍がすごむ、威圧感たっぷりの暖簾。「さあ、暖簾をくぐるぞ」と気合を入れたくなる暖簾ですね。店に入ると、厨房と並行して奥にまっすぐ伸びる赤いカウンターが目に入り、壁際にはテーブル席。一番奥には「スープ室」、その手前に「お勘定場」があって「ずっとこのままで変わっていないんだろうな」と思わせる内装、空気感。新横浜ラーメン博物館は昭和30年代の街並みを再現しているそうですが、この店は本当に昭和30年代から積み重ねた歴史と風格があります。言うなれば「ひとりラーメン博物館」といったところでしょうか。
僕の一押しは「ワンタンメン」です。クリーミーで旨みがはっきりした、真っ白の豚骨スープ。これに紅色のタケノコが映えます。古い店だけどスープは薄くはなくって、むしろ、重厚。口の中にじわじわとこってり味が広がります。麺はやや太めやや柔め。数えるとワンタンは6個入ってました。麺、チャーシュー、そこにワンタン。スープ量が多いので、この3つを混ぜ合わせながらどの順番で食べ進めていくか考える楽しい時間が過ごせます。
久留米で食べる久留米ラーメンとはちょっと違う「北九州の久留米ラーメン」を食べられる店。やっぱり北九州市の代表店はここ。異論は無いと思います。
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- 東洋軒
- ラーメン 北九州モノレール 香春口三萩野駅 南口 徒歩4分
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5.らーめん工房 龍(北九州市八幡西区) 私が九州で一番お薦めしたい豚骨ラーメン店です
僕は「福岡で一番お薦めの豚骨ラーメンを教えてください」と訊かれたとき、時間、場所、価格などの条件を外していいのであれば、ここを推します。営業は昼の数時間のみ、常に行列、北九州市中心部から離れた立地。「らーめん工房 龍」という店です。
今回紹介した他の4店よりは歴史は浅く、創業は約15~20年前でしょうか。それでも「定番」としたのは、誰がいつ食べても「美味しい」と思える高品質、安定感があるから。濃厚豚骨には違いありませんが、レンゲで掬っても骨粉は見当たらず。でも、スープ本体にしっかり骨の味がする、なのにサラッとなめらか、重さもある。
600円なのにチャーシューや海苔、キクラゲと一通りの具がしっかり揃っていて、とにかく一杯の満足度がすごく高いんです。濃厚豚骨にありがちな最後のもたれ感がなく、最初から最後までクライマックスの濃厚豚骨。常に店主が厨房に立ち、営業中も寸胴から釜へ頻繁にスープが継ぎ足され、店主がラーメンを作る。当り前かもしれませんが、品質を保つ姿勢が伝わってきます。なので、いつもの店の味が食べられる。そういう濃厚豚骨って、意外と少ないですよ。
以上、5軒。北九州の多彩な豚骨ラーメンは一回では到底紹介しきれませんが、まずは今回のお店へ行ってみて北九州の実力を体験してください!