カレーやラーメン、餃子に大衆酒場など、様々なグルメジャンルに特化して食べ歩きをされている著名ブロガーがキュレーターとなり、選りすぐりのグルメ情報を毎日お届けしている「メシコレ」。今回はキュレーターの皆さんの食べ歩き事情やグルメトレンドに迫るインタビュー企画として、ラーメンを1年に700杯以上食べるという自他ともに認める“超・ラーメンフリーク”の田中一明さん(以下、田中さん)にお話を伺いました。
田中さんはほぼ1日に2杯のペースでラーメンを食べ続け、地方にも精力的に遠征するなど全国のラーメン事情に精通しています。今回は、そんな田中さんの食べ歩き事情やラーメンにハマったきっかけ、さらにラーメン界のトレンドについてじっくりお話を伺いました。
1年で700杯以上を食べる!ラーメン界トップランナーのストイック過ぎる日常
●田中さんは年間700杯超のラーメンを食べられるそうですが、お仕事もお忙しいと思います。普段はどのように食べ歩きをされているのでしょうか?
まず、週に14杯ノルマっていうのがあるじゃないですか?って言ってもわからないですよね(笑)
簡単にご説明いたしますと、年間700杯以上を食べるとなると、無計画では達成できません。そこで年間計画をたてる必要があるのですが、年間計画だけだと不測の事態に対応できないんですね。あまりにも漠然とし過ぎていて。そこで1ヶ月あたり60杯というノルマを自分に課しています。
月に60杯だと年間で720~730杯になりますよね。しかし、これでもまだ粗っぽいので、週に14杯というノルマを定めています。すると、忙しくて食べられない日があっても、休みの日に稼げばノルマが達成できるわけです。年間計画に対して何杯足りないかを考えるよりも、週に14杯のペースを確実に刻む。これをやっていると崩れないですね。
●なるほど、綿密な計画があっての年間700杯達成なのですね。それでは普段行くお店は新規の、つまりはじめてのお店が多いのでしょうか?
一度行ったお店を再度訪問することもありますが、そんなに多くはないです。
私はラーメン情報を発信する責任があると考えています。もちろん、誰かが美味しいと言ったお店を食べ歩くというやり方はあってもいい。しかし、情報を発信する側としては一歩その先に行かねばならないと常々思っています。つまり、ゼロから美味しいお店を見つけなければならないと。
ゼロから美味しいお店を見つけるには、誰かが美味しいと言ったお店に行くというやり方では意味がないわけで。だから新しくできたお店の中から、これは美味しそうだと思ったお店、あるいはここの店主が作るなら間違いないだろうというお店、はたまた新しいというだけで美味しいかどうかもわからないお店に行く、ということを繰り返しています。
例えば、東京だと新宿や池袋には、レベルの高いお店が沢山ありますが、私の場合はそういうお店にもう一度行くよりも新店に行きます。コレクターのような感覚かもしれません。
一方で、リピートしたがゆえにわかることもあります。新店は味が安定しないこともありますから。新しい店に行くか、リピートするか、年間720杯しか食べられない中で、そのへんのバランスをどう取るかはいまだに課題ですね。
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超ラーメンフリークになってしまったきっかけと並ばずに入れる穴場的なお店の法則
●そんな田中さんがラーメンにハマったきっかけはなんでしょう?
もともと麺類は好きでした。小学生の頃は土曜の昼は麺類と決まっていて、そこで好きになって、中学・高校に上がると下校途中に行きたかったラーメン店に立ち寄ったりして。そんな感じで徐々にハマっていきました。
最初にハマった一杯は高校生の頃、1980年代に京都で食べた「天下一品」です。普通ですね(笑)ただ、その頃はリピートしていました。当時はラーメン店も少なかったですし。
次にハマったのが上京後。大学3年生の時に夜、勉強の合間に食べに行った環七沿いの「土佐っ子」というお店。今はもうないです。深夜まで営業しているお店でヘビーリピートしていました。当時、お店まで車を出してくれる友人がいて、100回以上は通ったと思います。
その後、4年生になって勉強が一段落した時、なにげなく手にとった月刊誌にラーメン特集が掲載されていました。そして、まずは「土佐っ子」と同系統のお店に行ってみたところ、この店がまた美味い。そんな感じで、どんどんエスカレートして今に至ります。
自分でもまさかこんなことになるとは思いませんでした(笑)
●ハマったきっかけが天下一品とは意外でした!多くのラーメン店を訪れている田中さんに是非お伺いしたいのですが、有名店だけど並ばずに入れる穴場的なお店などを教えてください(笑)
今年の2月、麻布十番に京都の有名店である「新福菜館」がオープンしましたが、その「新福菜館」が秋葉原と人形町にできました。これらは、麻布十番店と較べれば、立地の関係もあって並んでいないことが多いです。
この手のお店の見つけ方を教えます。新宿、渋谷、池袋、秋葉原、高田馬場のようなターミナル駅からちょっと離れた、目立ちにくい場所にあるお店には掘り出し物があるんです。たとえば椎名町の「麺屋零式」とか。
あと、長時間営業のお店も狙い目です。動物系ダシで濃厚系のお店はマニュアルさえ確立していれば味はブレません。ですから、浅草「弁慶」、錦糸町「なりたけ」のように長時間営業でも味は変わらないのですが、長時間営業すればお客さんの来る時間帯が分散されて並ばずに食べられます。
老舗店に旨いラーメンあり!古き良き味が残っている三重と山口がアツイ
●最近食べ歩いた地方でアツかったエリアはありますか?
エリアで言うと三重と山口ですね。
両県ともラーメン的に言うと失礼ながらメジャーな地域ではありません。山口の「下松牛骨ラーメン」を除けば、ご当地ラーメンもあまりない。しかし、老舗が強いんです。その老舗に良店が揃っているのが三重と山口だと思っています。
そもそも数十年生き残る老舗にはやはり理由があります。たとえば三重には関西のダシ文化が流入していて、そのダシ文化が東京などの最新のラーメン技術にいじられないまま残っているんです。
山口もしかりで、広島と九州にはさまれていて、トンコツ、動物系のスープを作るということに関しては強いエリアです。しかし、博多や広島は新店が多くて、どちらかというとトレンドを追った味になっているのに対して山口には古き良き形が残っている。
三重で言うと昆布ダシ、山口で言うと動物系スープが特徴ということになります。
●そういった老舗のいいところってどんなところなのでしょうか?
老舗の何がいいかというと、安定しているんです。色々なラーメン店を取材すればすぐわかるのですが、都内のラーメン情勢、たったの1年でも激変します。3割くらいの店が味はおろか、ラーメンのビジュアルまで変わります。一方、老舗は作り方が確立されているから、安定して美味しいんです。
三重や山口に準ずるのが山梨でしょうか。山梨も老舗が強いですね。
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「家系」「淡麗にぼし」「和え玉」…ラーメン界3つのトレンド
●メシコレでも新店と共にトレンドをご紹介いただいていますが、直近のトレンドについて教えてください。
一般的には「台湾まぜそば」と「家系」です。
台湾まぜそばは去年からのトレンド、家系も去年からなのですが、家系の勢いにインスパイアされる形で大規模チェーンじゃないお店も家系を出し始めたのが今年からのトレンドですね。
●たしかに、その二つはよく目にするようになったと思います。一般的でないトレンドというのもあるのですか?
ラーメン界のトレンドには3つあります。いま申し上げたのは「一般的なラーメン好き」、つまり週に1~2度ラーメンを食べる人から見たトレンドですね。2つめは私のような「毎日ラーメンを食べるラーメンフリーク」から見たトレンド、3つめは「店主」から見たトレンド。
一般的には先に申し上げた2つに加えて、ここ10年位ずっと続いている二郎インスパイア系。これが一般的なトレンドですね。街を歩いていればいやがおうでも気付きます。家系なんて15年前は都内に麻布十番の「笑の家」くらいしかなかったものが、いまやどの駅にも1軒くらいはある。
台湾まぜそば、家系など、一般的なトレンドは味が非常に濃厚です。これが何を意味しているかというと、週に1~2度ラーメンを食べる方にとってラーメンは「味が濃くてガッツリ」「安くてお腹が膨れる」という「用途」を満たさなければならないのです。
ところがわれわれは一般的な大きなトレンドよりも、もう少しニッチな世界を見ていて、「今年はエビが流行る」とか「今年はカニが流行る」とか、言い出すわけですね。そんな僕らのようなラーメンフリークから見たトレンドは「淡麗にぼし」です。
去年は鴨、今年はジビエとか言われていたのですが、特定店舗のみのトレンドに収束した感があります。そして次に何が来るかを考えた時、やはり濃厚系からの揺り戻しが来ているんです。
一般的なトレンドとは逆なんですよ。
ラーメンフリークの間で今なにが来ているかが私にとってはより重要なことです。
●それが今年は「淡麗にぼし」というわけですね。
はい。にぼしは乾物なので日持ちが良くて、お店側にとっても処理がしやすいですし、単価も高くない。
それと和ダシ感。現在、ラーメンの中華そば化が進んでいると思うのですが、中華そばの典型的なイメージは節ベースの枯れたスープなので、この原点回帰の傾向が続くなら、にぼしは強いでしょうね。
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鴨と煮干し。2本の名刀を携え『しば田』が巻き起こす淡麗革命
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●店主から見たトレンドは何になりますか?
なんといっても和え玉でしょうね。和え玉とは、替え玉のまぜそば版。つまり、博多ラーメンの替え玉をまぜそばでもできるようにしたものです。和え玉の下にタレやちょっとした具があって、安く二杯目も楽しめるというものです。
そもそも、昔は博多ラーメンだけの文化だった替え玉が、淡麗系ラーメンで細麺の店でもできるようになってきたという時代背景がありました。
単価を抑えていかにお客を満足させるか、得をしたと思ってもらえるかをお店側は考えているのでしょう。
自分がいいと思ったお店を紹介し続ける…ラーメン官僚としてTVに出演しはじめた時からブレないスタンス
●食べ歩きでこだわっているポイントはありますか?
自分がいいと思ったお店を継続的に紹介するということですね。
実は、かつて「ラーメン官僚」の名前でテレビに出ていた時、出版の話があったんです。しかし、出版社側と私で思惑が違っていたので、その話は断りました。
出版社側は「ラーメン官僚」の冠が欲しい。しかし、私がやりたいのは自分がいいと思ったお店を継続的に紹介することであって、「ラーメン官僚」の冠で本を出したらタレント本になってしまう。私の生い立ちを著した本なんて、ラーメンファンにとっても私にとっても必要ない(笑)
「ラーメン官僚」の冠で本を出していたら、おそらくタレント本になってしまって1冊出版して終わっていたでしょう。それは自分で選んだお店を紹介し続けるという使命からは長期的に見て遠ざかると思いました。私が重要視するのは、紹介するお店を選び、発信し続けられるかどうか。それができなければ本を作っても意味はないんです。
●なるほど。今後の目標を教えて下さい。
できるだけ多くのお店を紹介したい、そして自分がいいと思ったお店をニュートラルに紹介できる立場でい続けたいですね。
やはり紹介したお店の評判が高まったりするのは嬉しいものですから。
それと、ラーメンは立地9割、味1割なんて言われたりもする世界で、味がいくら良くても立地が悪くて潰れたお店はけっこうあります。ですから私は立地が悪くても頑張っていいものを作っているお店に手を差し伸べたいんです。
店に利益を与えたいとか、店を儲けさせたいとはちょっと違って、光が当たっていない店に光を当てたい、そしてそれを続けたいですね。
●最後に、メシコレの読者にメッセージをお願いします。
メシコレにおいて、ラーメンカテゴリーの特殊性って確実にあって(笑)ほかのジャンルのキュレーターの方々とわれわれは、お店の見つけ方が違うと思います。それは、ラーメン界って基本的にモグラ叩き稼業、新店を追うイタチごっこというか。
ラーメンほど新店が多くない他のジャンルでは、いいお店に何度も通い全メニューを制覇し、本当に美味しいものを紹介していくことが多いのでは? ラーメンは移り変わりが早いので、その時どきのトレンドをどうしても追ってしまいます。
ただ、私自身はトレンドに左右されないような普遍的な美味しさを持つ一杯を自分の好みにかかわらず紹介しようと思っていますので、そういう観点から見ていただければありがたいです。
何年か経って自分の記事を見た時に、「なんで俺、こんな店を紹介したんだろう」となってしまうようなお店選びはしないように心がけているということです。それがメシコレにおける私の役割かなと思っています。
いかがでしたでしょうか?田中さんの記事を読んで、是非お好みの一杯が見つけてみてください!また、「お願い!ランキング」の1部(テレビ朝日・深夜0:50~)でも、ラーメン担当として注目店の紹介をされているそうなので、気になる方は是非こちらもチェックしてみてください!
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https://mecicolle.gnavi.co.jp/curator/kazutan/
▼田中一明さんの食べ歩き情報はこちら▼
https://twitter.com/kazutan0264
(撮影協力:らーめん桑嶋)