荻窪駅の南口を出てすぐに見える仲通り商店街のアーケードを潜って、2本目の路地。少々薄暗くはあるが、並び光る飲み屋の看板についつい迷い込んでしまう愉しい小路。ずらりと並ぶ店の中でもイチオシは、『煮込みや まる。』だ。
裸電球に、変形コの字のカウンター、燗付器。こう揃うと古い店かと思うが、若い女将が立ち上げた店。けれども「敢えて造りました」という取って付けたような違和感がないのが、大変に好ましい。これも、大衆居酒屋を愛する女将さんと、客が作り出す雰囲気だからだろう。
店名に「煮込み」とあるように看板は煮込みだ。常に3種類用意されていて、味は醤油と塩、味噌。どれも煮込みの内容が違う。醤油味ならば、豆腐までたっぷりと出汁と玉ねぎの甘みが染みた肉豆腐(冬には、出汁が旨い湯豆腐になることも)。
塩ベースなら、びっくりするほど新鮮でとろっとろの脂が旨いモツ煮。木箱に入った刻み葱やオリジナルブレンドを含む数種類の七味があって、これらをアレコレ試すだけでも愉しいというものだ。
味噌味は牛すじ煮。こちらも煮込まれ、ほろほろと蕩ける牛すじに、好物の煮玉子。これだけでも満足だが、これには更なるお楽しみがある。
バケットを沈めてチーズをのせて、オーブンへ。グラタン風にしてくれるのだ(単品もあり)。旨い汁を吸ったバケットに芳しい香りと、蕩けてのびるチーズ。あァ、もう撃沈。
煮込み以外にも、ポテトサラダや白和え、ぬた、日替わりの料理などが並び、いずれも300円~400円程という値段も有難い。飲み物なら、シャリキンのレモンサワーやホッピーの他、件の燗付器でつける燗酒も愉しい。品書きには、10種類ほどある日本酒毎に、その酒のイメージに合う女優さんの方の名前が書かれていたりする、面白いアプローチ。
カウンターには、老若男女。客層が広いのも、この店が持つ雰囲気と女将さんの度量ゆえ。是非、隙間を見つけて、滑り込んでほしい店だ。