フランスでホテルを営んでいたタタン姉妹がお客様に出すデザート作りの失敗から誕生したといわれるお菓子、タルトタタン。
りんごの収穫期になると、尾山台にあるパティスリー『AU BON VIEUX TEMPS(オーボンヴュータン)』の店頭に登場します。
濃いキャラメル色のりんごはツヤツヤで透けるような質感。
ぎゅうぎゅうに敷き詰められていて迫力があります。
1年でこの時期だけ。ホールでの販売が基本です。
1日の生産数も限られているので待ちに待ったリピーターたちは予約して確保します。
ゆえに店頭に並ぶ数はさらに限られ、たとえ並んでも午前中で売り切れてしまうことがしばしば。
私も毎年、楽しみにしているひとりです。
タタン姉妹の失敗とは、りんごを煮詰めすぎてキャラメリゼの状態になってしまったこと。
ですので、タルト・タタンのりんごはアップルパイなどのりんごと違って、キャラメリゼ、つまり美味しい焦げ感があります。ただ甘いだけではない深みのある味わいなのです。
時間をかけてゆっくりじっくり煮て、更に焼き込まれたりんごは、ねっとりした食感になります。干し柿のようだと表される食感です。
またりんご自体から出てくるペクチンで、お互いがジュレ状にまとまります。
ここまでの状態のりんごに至っているタルト・タタンは実は珍しい。煮詰める手間がとてもかかるからです。それゆえに『AU BON VIEUX TEMPS』のファンが多いのでしょう。
完成時に表面に見えているりんごの部分は焼いているときは底の部分。逆にパイ生地と触れ合っているりんごの部分は焼き上げの時の表面に出ている部分なので、トロッよりはシャリッに寄った食感になっています。
この2つのりんごの状態も、わたしはタルト・タタンの面白さだと思っています。画像でもわかりますよね。パイ生地に近い部分のりんごの色は表面ほど茶色に色づいてはいないのです。
タルト・タタンの特徴として最後にもう一つ。
りんごと土台であるパイ生地を別々に焼き上げること。
よってパイはサクサクパリパリのまま味わえます。
タルト・タタンは生地とリンゴだけの茶色いスイーツなのでシンプルで素朴ですが、強い甘みと酸味がねっとりした食感とあいまってとても満足度の高い逸品に仕上がっていますね。
とことん引き出されたりんごの旨味を味わえるのが、『AU BON VIEUX TEMPS』のタルト・タタンです。