今般、「メシコレ」さんから、「私の食べ歩きの原点となった店舗について記事化してもらえないか」というオファーをいただいた。
「え!?難しい依頼だなあ、これは」というのが、ハナシを承った私が抱いた第一印象。
率直に申し上げて、これまで「メシコレ」さんからいただいた依頼の中で、最も難易度が高いテーマだなと感じた次第である。
その理由は2つ。
まず第1に、そもそも、私の食べ歩きの原点となった店は、とうの昔に閉店している。私にとってオーダーに該当する店は、かつて板橋区・常盤台の環七沿いに存在した『土佐っ子ラーメン』。同店舗は1990年代前半までの東京ラーメンシーンの頂点に君臨したレジェンド。足繁く通っていた当時は、同店の栄華は永遠に続くとすら感じたものだが、諸事情があり、あっけなく閉店してしまった。
第2に、「では、よく似たラーメンを出している店を」と、該当しそうな店舗を思い浮かべようとしても、いずれも「本当にその味にハマって、お前は人生をラーメンに全振りしたのか?」と問われれば、素直に肯定できないものばかりなのだ。オススメできる店舗はそれなりにあるのだが、「この味に出会ったから、心身をラーメンに捧げたのだ」とまでは言いがたい。
というわけで、熟慮の結果、私がラーメンにハマる切っ掛けとなった味に近い雰囲気を醸し出している現存店を紹介することとした。細部ではなく大局を捉える。それが案外、正解なのかも知れない。
そのお店とはズバリ、このお店だ!
【東京・京成立石】『一力』の「みそホルモンメン」
というわけでご紹介するのは、本年5月24日にオープンした、京成立石の『一力』。
こちらで提供されているラーメンは、通称「背脂チャッチャ系」と呼ばれるジャンルに属するもの。
「背脂チャッチャ系」とは、豚・鶏をはじめとする動物系素材から出汁を取った濃度の高いスープに、大量の豚背脂を振り掛けた、こってりタイプの1杯。
私にラーメンマニアへの道を指し示した『土佐っ子(閉店)』が手掛けるラーメンも、動物系ベースの濃厚スープに大量の背脂をまぶした「背脂チャッチャ系」だった。
よって、系統としては、両者は同じジャンルに属することになる。
『一力』は現在、オープンしてから1ヶ月が経過したばかり。
文字どおり、出来たてホヤホヤの新店であるが、現時点で既に、常に店前に長蛇の列が連なるすさまじい人気を誇っている。
その理由はたったのひとつ。
店主が創り出すラーメンのクオリティがずば抜けて高いのだ!
中でもとりわけ高い人気を誇るのが、店主が、立石の超人気店『貴生奥戸店(閉店)』の店長だった時代から、同店の看板メニューとして君臨してきた「みそホルモンメン」。
カウンター上に供された完成品のビジュアルから既に、凡百の背脂チャッチャ系とは別格のオーラを放っている。製法が比較的シンプルで差別化が困難な「背脂チャッチャ系」のジャンルにおいて、ここまで佇まいの違いを見せ付けることができる店主の力量は、ただものではない。
内容も、ビジュアルが示すとおりの傑物。
味噌のみに頼らない複雑玄妙なうま味が印象深いスープは、味蕾が細胞の奥底から歓喜の雄叫びを上げる垂涎の味わい。このスープを真正面から受け止め支える極太の低加水平打ち麺も、野趣味に満ちあふれながら、豪放磊落な店主の手によるものとは思えないほどムラがない。具も、非の打ちどころなし。トロトロに煮込まれたホルモンは、淡雪のように溶け、喉元をフワリと撫でる会心の出来映え。
これらのスープ・麺・具が繰り出すトリプルアタックに心動かされない者は、この地上に存在しないだろう。
『土佐っ子ラーメン』は、醤油ベースの中太麺、『一力』は、味噌ベースの極太麺。「背脂チャッチャ系」であることを除けば、両者のビジュアルには大きな差異がある。
が、味覚に訴えかけるうま味の質感、食べ手にもたらす高揚感の様相など、味づくりの根幹をなす思想は、驚くほど似通っている。「これぞ我が原点」と自信を持って断言できる、唯一無二の1杯だ。
紹介しているお店はこちら!
店名:一力
TEL:090-8564-6712
住所:東京都葛飾区立石7-7-11
営業時間:17:00~23:00
定休日:日曜