明治20年創業－百余年の歴史を誇る、岐阜の鮎の味を発信し続ける伝道師
毎年5月11日～10月15日の期間で開催される、我が地元・岐阜市の主要な観光資源にして、国指定重要無形民俗文化財である【長良川鵜飼】。その乗船場から西へ続く街並み一帯を通称『川原町』と呼び、今も格子戸のある古い街並みが残る、その風情は市内屈指と名高い。
そのほぼ西端に店を構えるのが、今回紹介する鮎料理専門店の『川原町泉屋』である。
『長良川鵜飼』開催期間なら予約ナシで食べられる「鮎らーめん御膳」
鮎料理専門店と言っても、定番の塩焼きから、岐阜の伝統食である「熟れ鮨（なれずし）」、鮎を調味料の原材料として使ったものまで、枠にとらわれない天衣無縫な創作性がこの店の特長。中でも、私のような麺好きに注目して頂きたいのが「鮎らーめん」。この店では10年ほど前から提供しているが、近年更に進化を遂げたと聞き、久々に実食してきた次第。
尚、このタイミングで紹介したのは、夜営業は基本的に要予約（昼営業は通年予約ナシでＯＫ）なのだが、長良川鵜飼開催期間は夜でも予約ナシでＯＫという背景から。私のような、夜を食べ歩きのメインに据える方にとっては朗報だろう。
今回紹介するのは「鮎らーめん御膳」。税込み2,160円という価格は、ラーメンの価格帯で捉えると高額に思われるかも知れないが、以下の内容を知ればむしろリーズナブルである事がご理解頂けるはずだ。では、以下提供順に紹介。まずは前菜から。
前菜の細目は
・ゴリ佃煮
・季節野菜のマリネ
・鮎のグリッシーニ
・出汁巻き玉子
・子持鮎の熟れ寿し
・鮎の白熟クリームとバゲット
と、この店の一品料理を少しずつ味わえる、何とも粋な献立。
特に2枚目の写真に採り上げる末尾２品は、いずれも店のカラーが出た傑作。
写真奥の「子持鮎の熟れ寿し」は、鮎・食塩・飯を杉樽に約１年漬け込んで作る【究極の発酵食品】。ご飯の粒を感じなくなるほど、正に「熟れた」ねっとりと滑らかな舌ざわり。濃厚なコクと程好い酸味が同居する、発酵食品ならではの独特の旨み。口中で子持ちの「子」の部分がホロリとほどける、儚げな食感。日本酒を好む方には、是非ともお試し頂きたい。
その「熟れ寿し」に生クリームとサワークリームを合わせたのが「鮎の白熟クリーム」。熟れ寿しの酸味と塩気を生かしつつ、よりまろやかな仕上がり。バゲットのサクサク感とのコントラストが、軽快かつリッチなひと時を演出してくれる。
鮎の旨みと京都の名門『麺屋棣鄂』の麺、必然の邂逅
さて主役「炭火焼・鮎らーめん」の登場だ。スープのベースは丸鶏と金華ハムの上湯と、鰹節と昆布から成る和ダシのダブルスープ。そこへ鮎の魚醤と、鮎の骨をカメリアラードで揚げた【鮎油】などを加えた、独自色の強いスープとなっている。
食べ始めは鮎の主張が淡く感じるが、食べ進むに連れ、天日干し鮎の開きの炭火焼、そして鮎塩焼きのほぐし身からじわじわと旨みがスープへ移り、中～終盤にかけて最高潮を迎える仕掛けが、何とも心憎い。
そこに合わせる麺は、京都の老舗製麺所『麺屋棣鄂』の中細ストレート麺を採用。モッチリとザックリが同居する独特の食感が、清冽ながら野趣味も湛える鮎スープに寸分の違和感なくフィット。スープに移った炭火焼の薫香までも麺が纏って運び込むため、口中から鼻腔へと一気に幸せが駆け抜ける。
鮎の旨みを余さず味わい尽くす「鮎ぞうすい」
上の写真が、前述した鮎塩焼きのほぐし身。「炭火焼・鮎らーめん」が供される際、ほぐし身を後の雑炊のために取っておくよう薦められる。つい麺と一緒に口にしてしまいそうになるが、ここはグッと堪えよう。
同様にスープも、飲み干したい気持ちを鉄の意思で抑え込み、共に供される白飯の器の中へ移す。尚、雑炊分のスープを確保した後、残りのスープは雑炊の味の加減を調整するため、雑炊を食べ終わるまで取っておく事を強く薦めたい。
白飯の器に鮎ほぐし身とスープを移し、自家製完熟梅干を乗せたら「鮎ぞうすい」の完成。鮎の旨みが移りきった極上のスープと、艶やかに炊かれた白飯とのハーモニーは、日本人の琴線にビンビン触れる味わい。そこへ、完熟梅干の程好い酸味と甘美な旨みが差し込み、スープが持つ深いコクと融合。気品高くも荒ぶる旨みへと昇華されたその味わいに、じっくり味わいたい気持ちを忘れ、つい一気呵成に完食してしまう事請け合いだ。
食事の終わりに供されるのが、飛騨山椒を練り込んだジェラート。しっとりとシルキーな舌ざわり、柔らかでごく自然体の甘みの中に、山椒特有の香りと刺激がスーッと駆け込み、えも言われぬ爽快感が余韻として残る。尚、季節により「よもぎ」や「ほうじ茶」のジェラート（いずれも自家製）になる事もあるため、何がはオーダーしてのお楽しみ。
以上、私としては2,160円以上の価値が十分にあると考えるのだが、如何だろうか？
それでもハードルが高いという方には、「炭火焼・鮎らーめん」単品なら税込み1,215円で食べられるのだが、その前後の料理も通して、岐阜の味をカジュアルに、かつ色々な形で味わい尽くせる「御膳」を今一度強く推奨する。
前述したので繰り返しになるが、10/15までは夜営業時でも予約ナシで食べられるので、是非この機会に味わって頂きたい。
