昭和7年に設置されて以降、東京都城西地区の中核エリアのひとつとして目覚ましい発展を遂げてきた渋谷区。
同区の区域は、一般的に想起される渋谷駅を中心とするエリアよりもはるかに広大で、北は、新宿の市街部の辺縁と認識されがちな、笹塚、幡ヶ谷、初台や、代々木にまで及ぶ。
もちろんその分、同区内に存在するラーメン店の数も膨大であり、店舗数の多さに比例して、クオリティが高い店舗も星の数ほど存在する。
今回は、それらの中でも選りすぐりの店舗を、1.渋谷区を代表する名店、2.知る人ぞ知る隠れた実力店、3.今後が期待される注目の新店の3つのカテゴリーに分けて紹介することとしたい。
なお、これらの店舗については、渋谷区のコミュニティFM局である『渋谷のラジオ』においても、紹介させていただいたところである。合わせて、参考に供していただければ幸いである。
1.【渋谷区を代表する名店】スタンダードだからこそ永遠に語り継がれる『はやし』の豚骨魚介
同店がオープンしたのは、2003年11月。
1952年に創業し渋谷の戦後を見守ってきた『喜楽』など、錚々たる老舗と較べれば、刻んだ歴史はまだ浅いが、創業当時から一貫して「らーめん」とそのバリエーションである「味玉らーめん」「焼き豚らーめん」のみで勝負し、それ以外のメニューに手を広げることは一切ない。
多種多様な嗜好を有する若者のるつぼの様相を呈する渋谷の中心部において、実質的にひとつの味のみで、10数年間にわたり行列店であり続ける。このこと自体が既に、奇跡に他ならない。
そんな同店にも唯一、知る人ぞ知る裏メニューが存在する。
それが、こちらの「らーめん(塩)」だ。品書きや券売機には表記が全く見当たらないが、食券を提示する際「塩でお願いします」と告げれば、通常は、醤油ベースで提供されるラーメンが塩で提供される。
豚骨ベースに鶏ガラを加えた動物系スープと、宗田節、煮干、昆布、干し海老により構成された魚介スープを絶妙なバランスでブレンドしたスープは、ラーメン好きであれば誰もが経験したことのある味でありながら、素材の一つひとつが収まるべき場所に収まり、一分の隙も見当たらない。
そんな素材感が醤油の肉厚なうま味と激しくせめぎ合う「らーめん」も良いが、塩の優麗な甘みがスープの輪郭を一層際立たせる塩バージョンも、渋谷ラーメンシーンの頂点にふさわしい名品だ。
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2.【知る人ぞ知る隠れた実力店】『ラーメンヤスオ』で堪能する、日本最強の極太麺との格闘
狭隘な路地が隅々にまで根を張る、さながら迷路のような街並みが印象深い南新宿エリア。
昭和の残滓を感じさせる、そんな南新宿の路地裏にひっそりと佇んでいるのが、こちらの『ラーメンヤスオ』だ。
雪が谷大塚の屋台営業から出発し、上野毛での営業を経て、たどり着いたのが現在の住処。
営業時間も短くなり、往年と較べれば訪問のハードルは随分上がったが、今でも、雪が谷大塚、上野毛時代からのファンが集う。それも、現状に甘んじることなく、提供するラーメンのクオリティ向上に取り組み続ける姿勢と、店主のお人柄のたまものだろう。
そんな同店において、人気メニューとして君臨するのが「ラうどん」。ネーミングからしてセンス抜群な同メニューは、山梨の郷土料理である「ほうとう」から着想を得た超極太麺が、食べ手に前代未聞の衝撃を与える衝撃の作品。
清涼感に満ちあふれたショウガの香味と、チャーシューの味付けに用いられたタレの甘辛いうま味の両者とが、瞬間接着剤のように麺にピタリと貼り付き、味覚中枢をズドンと直撃!
噛み切るのに強靭なアゴ力を必要とする麺のインパクトも相まって、食べ終わる頃には、ほぼすべての食べ手が再訪を心に誓うこととなる。
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店名:ラーメンヤスオ
住所:東京都渋谷区代々木2-29-3-1F
電話番号:非公開
営業時間:11:30~19:30、土曜:11:30~15:00
定休日:日曜
3.【知る人ぞ知る隠れた実力店】『製麺rabo』の「中華そば」は、鶏清湯のマスターピース
同店もまた、車や人の往来が多い大通り(方南通り)から、小道に入った場所に佇む「隠れ家」的な1軒。
初台の超人気店『嗟哉』の創業者である店主は、ラーメンシーンの潮流を鋭いアンテナで捉えながらも、それをやみくもに模倣することなく、必ず、店主ならではのオリジナリティを盛り込んで世に提示する、創作ラーメンづくりの奇才。
そんな店主の姿勢は、こちらの『製麺rabo』においても、余すところなく表現される。
基幹メニューである汁そばのラインナップは、タレの味の違いでなく、スープの種類に重きが置かれ、種類別に「らーめん」「支那そば」「中華そば」の3種類を用意。とりわけ、あっさり鶏出汁スープをベースとした「中華そば」は、店主自身が「おすすめ」だと胸を張る自信作だ。
啜ると、鶏が舌上を飛び跳ねているかのごとき躍動的な滋味が、瞬時に食べ手を強襲するが、むしろ特筆すべきは、そんな骨太な鶏のコクを真正面から受け止めるだけの力強さを秘めたカエシの存在。
長年ラーメンを食べ歩いた猛者ですら、驚きを隠しきれないほど甘じょっぱいタレが、鶏の素材感を引き立てると同時に、一度口にすれば忘れられない味の決定打となる。
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4.【渋谷区注目の新店】『ITACHI RAMEN』が繰り出す1杯から垣間見える、渋谷新時代の到来
渋谷道玄坂に鎮座する鉄板焼きの人気店『ITACHI』。
その『ITACHI』が、本年5月から、ランチタイム限定でラーメンの提供を開始。それが、こちらの『ITACHI RAMEN』だ。
同店の店長は、知人である「ITACHI」の店主からラーメンづくりのために招かれたすご腕。複数の都内の有名店で修業を重ねた結果、少なくとも、オープン当初の段階で手を広げるべきではないと判断。メニューは「中華そば」のみと、一点集中主義を貫く。
動物系素材と魚介系素材とを絶妙なバランスでブレンドしたスープは、統一感と訴求力を持ち合わせる。店長曰く「ありきたりの素材を使っているだけ」とのことだが、ありきたりの素材だからこそ、作り手の手腕が如実に味へと反映され、ごまかしは一切通用しない。そんな「いばらの道」を敢えて歩もうとする店長の真摯な姿勢には、感服するほかない。
麺は、菅野製麺の中太。店長が「これまでの研鑽の過程において、最も好きな麺」だと胸を張るだけのことはあり、小麦密度が極めて高く、スープとの相性も申し分ない。
派手さこそあまり感じられないが、要所をしっかりと押さえた、あっさり系ラーメンの鑑のような1杯。ラーメンを知り尽くした方にこそ味わっていただきたい、いぶし銀の佳作だ。
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店名:ITACHI RAMEN
住所:東京都渋谷区円山町1-3 SKビル2F
電話番号:03-3770-3315
営業時間:11:00~14:30
定休日:月曜日