いま、「ちょっと尖っている」モノやヒトが注目を集めています。少し前には、例えば店舗なら「なんでも揃えてある事」、人ならばゼネラリスト（守備範囲の広い人）が良しとされたこともありましたが、昨今は「これが欲しいならここへ行け」といった専門店や「この分野だけは誰にも負けない！」というスペシャリストがスポットライトを浴びています。得意分野を持って、それを売りとする、“出る杭”が打たれずに持て囃されだしているのです。
レストランも然り、なにかにとことんこだわったレストランが人を集めています。「La Boucherie Goutons（ラ ブーシュリー グートン）」もその一軒、こちらのお得意は「豚」です。豚の特定の部位を特定の調理法で食べさせるのが得意、というのではなく、とにかく豚を愛し、豚一頭をまるごと、その部位ごとの特徴を活かした料理に仕立てて食べさせてくれる店なのです。
店頭に掲げられた愛らしい２匹の豚が描かれた看板に、入店した瞬間に目に入るカウンターに置かれた大きな自家製生ハムに、店内いたるところにさりげなく置かれている小さな豚の置物に、従業員の方の豚のネクタイピンに、料理の説明をするシェフの饒舌さに…豚への愛情は、店全体に様々な形で表現されています。
全身をくまなく利用していることが分かる、主に前菜として用意されたシャルキュトリーの数々。中でも、血を主原料に、腸詰めにする代わりにパウンド型に流し入れて蒸しあげたブーダンノワールは、舌触りがなめらかで濃厚な味わい。ブリオッシュとリンゴのすりおろし煮との組み合わせが絶妙な一品です。ブラインドでいただいたらフォアグラと思ってしまうかも…と表現するのは決して大袈裟ではないと思います。
メインにはメニュー名にLYB豚（ルイビトン）、満州豚といった豚のブランド名も掲げています。満州豚は、その名の通り北京郊外の旧満州にあたる地域で広く飼育される黒豚で、別名はセレ豚（セレブー）。柔らかな肉質とコクのある味わいが特徴です。ちなみにこちらは東京Ｘ豚の交配種のひとつでもあるのですが、原種そのものを育てている畜産家は日本ではたった一人なのだとか。とても希少のため、いつもあるわけではないので、「今日はあります」と言われたらオーダーすることを個人的にはおすすめします。
その畜産家との出会いが、「La Boucherie Goutons」の郷シェフが豚にこだわるようになったきっかけです。「最高の素材を作る人がいるから、僕はその最高の素材を最高の料理にしたいと思った」というお話しを伺ってから味わったため、多分私は2倍以上の旨さを感じていたと思います。メインはどのテーブルにもシェフが自らテーブルに運んでいらっしゃるようだったので、そのあたり是非聞き出してみて下さい。ただし、我々のようについ話しこんでしまうと、途中からシェフが「早く（美味しいうちに）食べて！」オーラを発してくるので、その信号に気付いたら食べる方に専念、と切り替えるのをお忘れなく。
ミルキー、ジューシーという言葉の意味を実感できる豚肉は、シェフの視界に一番入りやすい位置にある網で炭焼きにされるので、最高の状態で提供されます。フランス料理の名店の数々で磨いた腕前で、豪胆さを想像させるビストロという運営形態からは想像できない繊細さを兼ね備えた「豚」料理の数々は満足を超えて感動をもたらしてくれることでしょう。
ブーダンノワール以外の料理には、4つの基本材料のみで作られたバゲット、その中でも食感でも味わいでもあまり主張のないシンプルなものが添えられます。東京では多くのレストランで提供されている直営店もある卸のパン屋さんのものなので珍しいとは言えませんが、とにかく「豚」を味わって欲しいという店の想いに一番こたえてくれるパンかもしれません。
デザートには、リンゴのタルトなど日本でお馴染みのものから、アルザス地方の伝統菓子バシュランといったレアなものまでが用意されており、食後にも大いなる楽しみが待っています。がっつりお肉の後の、本格デザートとくれば、肉食女子が喰いつく事間違いなし?!気負わず寛げるカジュアルな雰囲気も好印象、ブレイク前に常連になっておきましょう！
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