異彩を放つ深紅の外観、席数倍増で存在感も倍増!
店名は、開業の地である「魚籃坂」(ぎょらんざか)から。釣りが趣味だったことから包丁を持つようになったという羽立シェフは、三田のコートドールで料理人人生を歩み始め、フランスへ渡り、ベルギーを経て帰国、その後オーバカナル、オザミでシェフとして活躍したのちに「魚籃坂」に店を構えました。カウンターを中心とした14席のこぢんまりとしたレストランでしたが、提供される料理は訪問客ばかりかプロのシェフにも評価が高く、繁盛店になるのには、そう長い時間はかかりませんでした。
手狭になった「魚籃坂」を引き払い、現在の場所に移転したのは2015年の夏。カウンターではなくテーブル席中心、中二階も含めて36席と倍以上に拡張した新店の真っ赤な壁は、昼間はもちろん、夜は金の店名を照らすライトを反射して浮き上がり、周囲で最も目をひく存在です。移転後も、独立当初の気持ちを忘れない…という心意気と私は思っていますが、「Gyoran魚藍」と地名を重ねて付けた元の店の名を八丁堀でも引き継ぎ、「Brasserie Gyoran」を名乗っています。
美食へのこだわり満載、「おもてなし」は和食だけの専売特許にあらず?!
テーブルにはバスク織、壁には奥様の実家の石屋さんを通して仕入れた稲田御影と、ビストロの気軽さにプラスして、上質感も漂うディテール。提供されるのは、スペイン国境に近く、海と山の幸に恵まれたバスク地方の料理を中心としています。バスク地方は、世界有数の美食の都。風光明美であるだけでなく、食の名産品も多々あり、バスク豚の生ハムもその一つです。その生ハムをオーダーごとに切り分けるスライサーの導入など、シェフの腕だけではなく機材導入でも美味探究している姿勢にサービス精神の旺盛さが現れています。
気楽に食べられる料金設定も◎、プラス要素にも手抜きなし!
前菜とメインの料金だけで、アミューズとデザートと食後のドリンクが付き、コース仕立てで楽しめるシステム、と聞いて想像する“料金外”のアミューズとデザートはどんなものですか?少量、おまけ程度、低コスト…きっと誰もがそんなキーワードを連想することでしょう。ところが…
アミューズには静岡の契約農家からの有機野菜を用意、食後のデザートはサービスとは思えないボリューム、いずれも想定外の嬉しい裏切りでした。
シェフ自身がしとめたジビエ料理がスペシャリテ、秋冬限定のお楽しみ!
自ら狩りに出掛けるという羽立シェフ、初冬からバレンタイン頃までの時期はシカやクマ、カモなどのいわゆるジビエをメニューの巻頭に載せています。
牛や豚などより、少し癖のある獣肉を美味しく食べさせるポイントは入念な下処理と調味。個性的な材料は、印象深い皿となって眼前に供されます。料理にひと癖あるからこそ、パンはニュートラルなものが合います。日本人にとっての「ニュートラル」は、厚過ぎないクラスト(外皮)とむっちりのクラム(中身)、そしてほんのり甘めの味わい、ではないでしょうか。
料理に添えられるパンは、全粒粉とライ麦をブレンドして焼き上げた自家製の丸パン。ころっとまあるいチャーミングな形、軽い口当たり、全粒粉の自然な甘さと、ジビエの濃い残像を爽やかにリセットするライ麦のかすかな酸味で料理との相性抜群です。もちろん、上記「ニュートラル」の条件は満たしており、パンだけで味わっても充分に楽しめる絶品です。ただし、デザートも想定外のボリュームなので食べすぎにはご用心!
中二階には10名程度のパーティーにも使えるテーブル席、1階には窓辺のカップルシートや一人でも座りやすいカウンター席があり、様々な用途に対応できる店。バランスの良さは料理だけではありません。大切な人とのひと時を、美味しく楽しく盛り上げてくれることでしょう。