迷子必至、だからこそ隠れ家感満載?!
最近改装されたという、黒にシルバーの翼を付けたようなモダンなデザインビルの1階にあるフレンチレストラン「Jour de Marche(ジュードゥーマルシェ、最後のeには本来アクサンテギュが付きます)」。
ポイントカラーに赤があしらわれたシャープな外装。中に入るとベージュがベースカラーとなり、洗練された中にも訪れた者を温かく包み込むような雰囲気があります。
たどり着けば、くつろぎ感があるのですが…極近くにいるのに辿りつけない、と迷子になってしまう可能性もあるのでご用心。入口は表通りではなく細い脇道に面していて、前に設けられた駐車場にびっしりと駐車している時は分かりづらくなってしまっています。
ビルの真正面に設置された街灯に掲げられたフランスの国旗がなければ、私も通り過ぎていたかもしれません。
食材を存分に味わって欲しい、想いが作る繊細な料理
厨房2名にホール1名、それで18席を賄う小ぢんまりとしたレストラン。だからこそ、アラカルトはなく、ワンコースのみとなっています。
店名に含まれている「マルシェ」はフランス語で「市場」を意味しています。「市場」のように、季節の野菜や旬の食材があり、それをめいっぱい楽しんでもらえる形で提供したい、それが榎本奈緒子シェフの想いです。
フランスも各地に特色のある地方料理があり、特にひとつの地方の料理が得意であることを店の特徴とするレストランもありますが、この店の特徴は「食材の持ち味を活かすこと」。
食材は、榎本シェフの手によって料理となり、より一層輝きを増して、食べる人を高揚感の渦に巻き込み、溌剌とさせます。料理が来るたびにワクワクが止まらない、そんな時間の中で「食材を活かすことは、食べ手を活かすことでもあるのだな」と強く感じました。
パンも自家製、2種それぞれに異なる風味
パンは前菜から料理に寄り添います。
料理だけではなく、パンも素材の持ち味を活かして2種を手作りしています。
手前がフランス産の粉、ヒマワリの種や大麦、胡麻などがまぶされています。すっきりとした味わいに食感がアクセントを加え、個性的な余韻を作り出します。
奥は国産のハルユタカを使用。むっちりと目の詰まったクラムの弾力のある食感と後味に残る濃い小麦の甘さを楽しめます。
料理に合わせて、お好みで食べ分けると料理が二倍楽しめます。
さっぱりとした前菜のサラダには同じくさっぱりのフランス粉のパン、という考え方もあれば、食感が楽しい生の野菜が添えられたお料理にはトッピングのない国産ハルユタカを、というのもアリ。敢えて「これで食べて下さい」と1個ずつではなく、2種2個同時提供とするのも、榎本シェフ流の「おもてなし」なのでしょう。
行き届いた気配り、絶妙な量とコース構成
不思議なもので、料理の異なる魅力がそれぞれのパンの個性によって抽出され、同じお皿でも違った料理を食べているようにも感じました。
多面性のある料理、ということになるのでしょうか。パンは引き立て役でもあり、引き出し役(?!)でもあったのです。
濃淡・冷温・重軽、さらには繊細・大胆、緻密に計算されたコースの流れは刺激的で、最後まで「次はどうくるのか」と期待に胸を膨らませながら待てる構成。なによりも、「もう一口食べたい」と「満足」の境、そのギリギリの量と調味の程度に引き付けられました。
刺激的な流れに酔い、心地よい流れに身を委ねる、至福の時。注目の新店です。