「幻」と呼ばれる所以
週4日の営業、オープンは火曜日・水曜日・金曜日が14時、土曜日が11時から。シナモンロール専門店「CYRON」の営みはとても緩やかです。
裏腹に、営業日の完売までの時間は驚異的なスピード。シャッターが上がる前からお店の前に行列が出来ていて、開店以来ずっとほぼ1時間程度での売り切れが続いています。
列に並んでも購入できないお客さんもいるほど。一日限定100個、ひとりの購入個数は4個までとなっているので、前から数えて25番以降だったら手に入れるのは難しいと覚悟しておいた方がいいかもしれません。
そんな状態がもう5年も続く人気店のため、「CYRON」のシナモンロールは「幻のシナモンロール」とも呼ばれているのです。
シナモンとの”運命の”出会い
オーナーの森麻里子(もり・まりこ)さんは、もともとパティシエールでした。製菓研修で赴いたスリランカで、"本物の"シナモンに出会い、その類まれなる香りと甘味に魅せられて、スリランカシナモンを世に送り出すことに使命感を感じたのが「CYRON」開業のルーツです。
スリランカシナモンの上品な香りと他と一線を画する甘みは熱を加えることによって、より引き立つ。そしてこの魅力を最大限に伝えるには、発酵菓子がいい。
そう、森さんはシナモンロールが作りたかったのではなく、シナモンの魅力を伝えるための食べ物を作りたかったのです。
シナモンは開業から5年になるいまでも、年に数回スリランカを訪れ、自身の目で確かめたシナモンを仕入れているほどにこだわりの素材であり続けています。
我が子のように、愛情込めて
一般的にシナモンロールはシナモンペーストを巻き込んだ丸い生地を天板に並べて焼きますが、「CYRON」のシナモンロールは1つ1つをキューブ状の型に入れて焼き上げます。
丁度良い生地量で、丁度良い発酵がとれていないと、キレイなキューブにならないため、天板で焼く時よりずっとずっと技術が求められます。
また、型の手入れにはサッと拭きあげればいいだけの天板と比べ物にならないくらい時間と根気が要るものです。
「同業の方には随分手間暇かけていますね、と言われます」
それでも、森さんがその作り方を止めないのは、型に入れて焼いた方が適度に水分を保て、食べた時の口当たりと口どけに大きな差が出るからなのだそうです。
だからひとりで切り盛りする「CYRON」では一日100個が限界、こだわり故の限定数なのです。
「簡単に言うと、本物です」
それだけのこだわりを持って作られたシナモンロール達は、どれも穏やかで優しい顔立ち。
切った瞬間にこぼれ出す芳香にまずは「シナモンってこんなに爽やかな香りだったのだろうか」と惹きつけられました。
口中に広がる清涼感のある香りに二度目の驚き、そしてその余韻の長さに三度目の驚き、さらにその甘さに四度目の驚き、これはもう「感動」でした。
これがシナモン、これが「本物」だったのだ、と、食べ進むにつれてその味わいに魅せられ、食べ終わる頃には従前の概念を根底から覆されていました。
軽さが魅力、組み合わせが魅力
シンプルな配合の食事系とは異なり、副材料もたっぷり入ったリッチな生地であるにも関わらず、食後感が軽いので、ご年配の方でも1個食べきってしまう方もいるそうです。
軽さの一因は、仕込みに牛乳ではなく豆乳を使用していること。周囲をカリッと焼きあげたくて色々試作を重ねてたどり着いた食材です。
そして何より上質なシナモンだからこその上質な香り、コーヒーやハチミツ、フルーツとの組み合わせの妙が飽きさせない味わいを作り出しているのでしょう。
私が伺った日に店頭に並んでいた7種類のうち、6種類が季節商品というバリエーションの豊かさも行列が絶えない理由に他なりません。
まっすぐ、しなやかに
シナモンへの強いこだわりを持つと同時に、とてもおっとりとしている森さん。
営業日でない日は、シナモンの卸業もされているそうで、目の回るような忙しさに違いないのですが、気負いはまるでなく、「家族の協力があって、地元のお客さんが愛してくれて、この店がある」と感謝の気持ちを胸に穏やかに営みを続けています。
ぶれない気持ちがあるからこそ、まっすぐに進んでいけるのかもしれません。応援したいお店です。
紹介しているお店はこちら!
店名:CYRON(セイロン)
住所:神奈川県川崎市多摩区登戸1813
営業時間:[火・水・金]14:00~16:30 (完売にて終了)[土]11:00~14:00 (完売にて終了)
定休日:月曜日・木曜日・日曜日・祝祭日
公式ページ:http://ceylon.jp/