阿佐ヶ谷の酒場といえば、駅北側にあるスターロードが有名だが、南側にも好い店が点在する。今回紹介するのは、杉並区役所近くにある大衆酒場『つきのや』だ。2016年2月1日放送のTBSテレビ「吉田類の酒場放浪記」でも紹介された地元ご常連さんに愛される人気店。派手ではなく、カウンターに簡単なテーブルの簡素な造りの店だが、いつもゴキゲンに寛いでいる客でいっぱい。気軽さと活気が魅力だ。
先ずは、壁一面に貼られたメニューに目を奪われる。旬の魚を中心に、旬野菜、麺類、御飯ものまで揃って何でもござれであるが、中でも種類豊富でおすすめは、「魚介で日本酒を」だ。
例えば刺身なら、毎日数種類並ぶ。切っただけではなく酢〆、昆布〆なども並ぶところが好い。
また、ホッキ貝の刺身ならば、ヒモも焼いて調理して出してくれるという気の利きよう。嬉しくなって、酒が進むというものだ。
酒類は、こちらも何でもござれと、ビールやチュウハイ、バイス、ホッピーと種類は豊富。利き酒師の資格を持つスタッフが揃える日本酒なら、常時10種類程度。それも、受け皿までなみなみ一杯。つまりは、口をグラスに持っていく顔がニヤけてしまって締まりがなくなってしまうというやつである。
刺身で特長的なのは、ヅケだ。漬けタレが、一般的な醤油やみりん、酒で作るものではなく、伊豆諸島のヅケ。青唐辛子が入って、すっきりと爽やかな味わいが身上。暑さを乗り切るための知恵は、口にも悦びを与えてくれる。
焼き物もその日によって様々だが、酒の肴としてならば、「もみイカ」を頼みたい。「もみイカ」とは、内臓を入れたままの丸干しのイカ。それを炙って出してくれるから、先ず香りだけで一杯飲める。口に放り込むと、身自体の旨味に肝のコク味が加わって、膨らむ旨味。そこへ燗酒をクッと含めば、さらに香りと旨味が口いっぱいに広がるというものだ。
つきのやの忘れてならない特徴は、くさやの豊富さだろう。鯵、秋刀魚、鮫、むろあじ等、常時4~5種類。頂いた秋刀魚のくさやは、小さいが肝まで旨いもの。
肴は仕入れ次第だそうだが、350円~600円辺りがバリューゾーンというのも嬉しい。気取りなく魚と日本酒を愉しめる、『普段着』の良店。